O157は酵素基質培地で「大腸菌」として検出されない?

酵素基質培地は、微生物が持つ特定の酵素の活性を利用して、菌の種類を識別する培地です。
大腸菌群や大腸菌の検出では、主に以下の2つの酵素が指標とされています。
 

  • β-ガラクトシダーゼ (β-GAL):大腸菌群が有する酵素
  • β-グルクロニダーゼ (β-GUD):大腸菌(Escherichia coli )が有する酵素
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    これらの酵素に反応する発色性または蛍光性の基質を培地中に加えることで、菌が酵素を持っていればコロニーの着色や培地の色変化が観察され、視覚的に識別できるようになっています。
     
    一例として、XM-G寒天培地 (島津ダイアグノスティクス製) による判定を以下に示します。

    酵素活性判定コロニーの色
    β-GALβ-GUD
    大腸菌群赤色
    大腸菌青色
    その他無色など

     

    O157のβ-グルクロニダーゼ活性

    国内で分離されるO157のほとんどは、β-グルクロニダーゼ活性を持っていません。そして、O157はβ-ガラクトシダーゼ陽性であるため、XM-G寒天培地上では、ほとんどの場合「大腸菌群」として検出されるのです。
    XM-G寒天培地を用いた検査において、「大腸菌が不検出だったからO157のリスクは無い」というのは完全に誤りです。大腸菌(青色コロニー)よりも、大腸菌群(赤色コロニー)の方が潜在的なO157のリスクは高いのです。XM-G寒天培地及びそれと同様の酵素基質培地は、大腸菌群や大腸菌の迅速なスクリーニングに非常に有用ですが、O157のリスク評価には不向きであると言えるでしょう。
     

    O157を見逃さないためには

    手間もコストもかかりますが、O157検出に特化した検査方法を採用するのが最も有効で確実です。
    PCRによるベロ毒素 (VT) 遺伝子検出及び血清型のタイピング、CT-SMAC寒天培地*、CHROMagar™ O157**等を用いた選択分離培養、などについて記載されている下記の通知法に準拠した方法で検査することをお勧めいたします。
    * ソルビトール非発酵株を識別
    **β-グルクロニダーゼの有無に関わらずO157を識別
     
    食品からの腸管出血性大腸菌O26, O103, O111, O121, O145及びO157の検査法
    (平成26年11月20日 食安監発1120号第1号 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知)
     

    おまけ ~筆者がβ-グルクロニダーゼ陽性O157を検出したときの話~

    筆者は以前、一度だけβ-グルクロニダーゼ陽性のO157を分離したことがあります。かなり珍しい株であることは知っていたので、分離できたときは、まるで激レアカードを引き当てたような喜びを感じたのを覚えています。
    検査の流れはこうです。ベロ毒素遺伝子陽性 → ジェノタイピングでO157と判明 → 免疫磁気ビーズで濃縮後に分離培養 → O157の定型集落を確認 → O157血清で凝集。ここまで確認したうえで、さらに擬陽性株の確認試験を行いました。そのとき、CLIG寒天培地***でβ-グルクロニダーゼ活性が検出されたのです。
    *** 蛍光基質を利用してβ-グルクロニダーゼ活性を確認する培地
     
    興味がわいて、その株を試しにXM-G寒天培地に画線塗抹し、一晩培養してみました。
    ところが、コロニーの色は青色ではなく赤色だったのです。この矛盾した結果に首をひねりながら、もう一晩培養を続けてみたところ、赤色コロニーの一部が青みを帯びていました。どうやら、その株はβ-グルクロニダーゼ活性が非常に弱く、発色基質では一日では青くならなかったようです。一方で、感度の高い蛍光基質を使うCLIG培地では、一日でその活性を検出できていた、というわけです。
     

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    腸管出血性大腸菌 O26、O103、O111、O121、O145 及び O157の検査 16,500円(税込)
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