一般生菌数=総生菌数ではない!?|微生物検査に潜む誤解とは?

食品の微生物検査結果を見ていると、「あれ?特定の選択培地での菌数のほうが、一般生菌数より多い…?」という場面に遭遇することがあります。
これはミスや矛盾ではありません。むしろ「一般生菌数」という指標の意味を正しく理解していないと、見誤ってしまうことがある、よくある現象です。
 

一般生菌数とは?

一般生菌数とは、標準寒天培地を用いて、35℃±1℃、48時間±3時間の好気培養で発育する菌数のことです。
つまり、これは「食品中の全ての菌」を測っているわけではなく、「この条件で育つ菌」だけを測っているのです。
 

選択培地での菌数が一般生菌数より多くなるケース

以下のような条件では、特定の選択培地で得られる菌数が、一般生菌数を上回ることがあります。
 

卵黄加マンニット食塩寒天培地(黄色ブドウ球菌分離用)

対象食品:好塩性菌が多く含まれる食品
この培地は7.5%の食塩を含み、耐塩性・好塩性菌の発育に適しています。
一方、標準寒天培地(0.3%食塩)では、こうした菌(特に好塩性菌)は十分に発育できず、コロニーを形成しないことがあります。
 

MRS寒天培地(乳酸菌・ビフィズス菌分離用)

対象食品:嫌気性の乳酸菌やビフィズス菌が多く含まれる食品
MRS培地を嫌気条件で培養すると、栄養要求性の高い乳酸菌や、偏性嫌気性のビフィズス菌が発育します。
これらの菌は、標準寒天培地の好気条件では発育しないため、一般生菌数としてカウントされません。
 

デソキシコレート寒天培地(大腸菌群分離用)

対象食品:大腸菌群と、乳酸菌などの生育阻害菌が共存する食品
標準寒天培地では、例えば乳酸菌が増殖することで局所的に酸性化し、大腸菌群の発育が阻害されることがあります。
一方、デソキシコレート培地では、グラム陽性菌(乳酸菌など)が抑制されるため、大腸菌群が優位に発育します。
 

総生菌数を把握するには「多面的な培養」が必要

このように、食品中に優勢な菌の性質や培地の選択条件によっては、選択培地での菌数が一般生菌数より多くなることがあります。
一般生菌数は「一つの条件下での指標」に過ぎません。
そのため、異なる培地・異なる培養条件を組み合わせることが、微生物の全体像をつかむ上で不可欠です。
 

まとめ

「一般生菌数=総生菌数」ではありません。
この誤解を正すことは、食品のリスク評価や品質管理の出発点です。
検査結果を正しく読み解くためにも、菌の性質や培地の特性を理解した「多角的な視点」が求められます。
 

おまけ

Q. 「一般細菌数」とは?
A. 食品微生物検査における公定の項目名称として、「一般細菌数」というものはありません。「一般生菌数」の単なる誤用です。35℃±1℃、48時間±3時間の好気培養で、標準寒天培地で集落を形成する生きた細菌、真菌(カビ・酵母)の総菌数が一般生菌数です。生乳の検査において、「細菌数」という項目がありますが、これは生きている細菌・死んでいる細菌の総数になり、「一般生菌数」とは定義が異なるものになります。
 

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