農場環境下における同腹哺乳豚間のコクシジウム伝播

(ピッグジャーナル2013年11月号掲載)

農場環境下における同腹哺乳豚間のコクシジウム伝播

Population dynamics and intra-litter transmission patterns of Isospora suis in suckling piglets under on-farm conditions

1.序論
 Isospora suis(コクシジウム)は、養豚農家において蔓延している寄生虫であり、哺乳豚に一過性の下痢と脱水を起こし体重増加を遅らせるため、生産成績を悪化させる一因となっている。一度、コクシジウムが農場内に定着してしまうと、汚染された分娩舎内で子豚から子豚へと伝播し、感染が続いてしまう。現在この疾病の対策としては、トルトラズリル(バイコックスなど)の投与にほとんど頼っている状態である。
 本研究では、分娩舎の汚染度合と感染の広がりとの関係を明らかにし、伝播を抑えるための方法を探索するため、一般的な農場の分娩舎において、3つの飼育条件を設定し、コクシジウムが同腹の子豚間にどのように伝播されるのか調査した。

2.材料・方法
 デンマークの母豚250頭の規模のSPF農場で、哺乳豚のプール糞便中からI. suisが検出されることを確認し、実験を行った。子豚を次の3つの条件で飼育した。
 A. 普段の農場の飼育管理
 B. Aと同様の管理で、各ペンで初めにオーシストを排出した個体を隔離
 C. Aよりも清掃を減らし、機械による自動清掃のみで分娩舎を水洗しない群
 分娩舎において、生まれた子豚から糞便を経時的に採材し、糞便中のオーシストの数を計測した。また、下痢を呈している豚に関して、症状をスコア化して記録した。

3.結果
 生後1週までにオーシストを排出した個体の割合は、群A、Bではそれぞれ、2.6、1.4%だったのに対し、水洗をしなかった群Cでは50%であり、早い時期からオーシストを排出した。オーシストの排出開始時期は、生後12-13日、19-20日の2つの期間に集中していた。また、生後早くからオーシストを排出した個体ほど排出するオーシストの総数は多く、下痢もより重篤であるという傾向があった。

4.考察
 子豚のオーシスト排出開始時期が2つに分かれていたことから、分娩舎環境中のオーシストが生後数日の感受性の高い子豚に感染し、この子豚が排出したオーシストにより同腹の子豚への感染が広がったと考えられる。通常の清掃では、コクシジウム症の発生を完全に防止することはできないが、環境を清潔に保つことで、早期の感染を抑制できるため、オーシストの排出時期を遅らせ、下痢の症状を軽減できる。

5.一言
 豚のコクシジウム症は、単独感染では死亡率の低い疾病ですが、大腸菌やクロストリジウム症、ロタウイルスの感染が重なると、症状が重篤になります。発生農場では、薬剤による対応も重要ですが、分娩舎内の衛生状態を見直すことによって、薬代の節約や他疾病のコントロールにつながるかもしれません。

Sotiraki et al.
Parasitology 2008, 135:395-405

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