リンゴを汚染するカビ毒(パツリン)について
8月~11月はリンゴの収穫時期です。リンゴの品種は、世界中で約 15,000種類、日本では約 2,000種類もあるそうです。品種により酸味と甘味のバランスに特徴があり、多様な風味を味わえます。しかし、不適切な貯蔵をした場合にリンゴを汚染するパツリン(カビ毒)が発生することが知られています。
今回はリンゴを汚染するカビ毒(パツリン)についてお話したいと思います。
《カビ毒とパツリンについて》
カビ毒とは、カビが作り出す代謝産物のうちで、人や動物に対して有害な作用を示す化学物質のことで、この化学物質を総称して「カビ毒」と呼んでいます。
パツリンは、カビ毒の一種で土壌中にいるペニシリウム属(Penicillium, アオカビ)又はアスペルギルス属(Aspergillus, コウジカビ)などが生産するカビ毒です。
パツリンは1942年に発見され、当初は抗生物質として注目されていましたが、人に対する毒性が強いことが明らかとなったため、その利用は断念され、現在では、りんごを汚染するかび毒として国際的にも規制の対象とされています。
《食品を汚染するカビ毒について》
食品を汚染するカビ毒は現在、300種類以上知られており、環境条件・種類によって汚染する農産物や汚染する時期・作物中の部位などが異なります。
国内で消費される農産物や食品を汚染する可能性がある主なカビ毒には、以下のようなものがあります。
カビ毒 | 汚染が確認されている主な農作物や食品 | カビ毒を産生する主なカビ |
アフラトキシン類(アフラトキシンB1,B2,G1,G2,M1,M2) | ナッツ類、穀物、乾燥果実、牛乳 | Aspergillus flavus Aspergillus parasiticus |
オクラトキシンA | 穀類、豆類、果実、コーヒー豆、カカオ | Aspergillus ochraceus Penicillium属 |
トリコテセン類(デオキシニバレノール,ニバレノール,T-2トキシン,HT-2トキシンなど) | 穀類 | Fusarium属 |
パツリン | りんご加工品 | Penicillium expansum Penicillium patulum Aspergillus clavatus |
ゼアラレノン | 穀類 | Fusarium属 |
フモニシン類(フモニシンB1,B2,B3) | とうもろこし | Fusarium属 |
ステリグマトシスチン | 穀類 | Aspergillus versicolor |
シトリニン | 穀類 | Penicillium citrinum |
ルテオスカイリン | 穀類 | Penicillium islandicum |
麦角アルカロイド類 | 穀類 | Claviceps属 |
《パツリンのリスク管理状況》
(1)国内
食品衛生法に基づく清涼飲料水の成分規格としてりんごジュース及び原料用りんご果汁について、パツリンの規格0.050ppm(=0.050mg/kg)が定められています。なお、濃縮された原料用果汁については、濃縮した倍数の水で希釈したものに基準値が適用されます。
(2)国際機関及び諸外国
コーデックス委員会(FAO/WHO合同食品規格委員会)は、2003年にりんご果汁及びりんご果汁を原材料とする飲料のパツリン汚染防止及び低減のための行動規範を採択するとともに、50 μg/kg(=0.050mg/kg)の最大基準値を設定しています。
《パツリンの汚染事例》
台風や雹害などによる地上への落果、収穫、包装、輸送時等に受けた損傷部から土壌中にいるペニシリウム属(Penicillium, アオカビ)又はアスペルギルス属(Aspergillus, コウジカビ)の一部のカビが侵入するとされており、不適切な貯蔵等によりパツリンを産生します。特に台風等により落下して傷が付くとともに、土壌に直接触れた果実はパツリン汚染のリスクが高いと考えられます。
このカビは、湿度が高ければ、低温でもパツリンを作ることが知られており、日本の気候条件でも十分に作られる可能性があります。パツリン汚染の可能性の高い主要食品としてりんご果汁が知られています。
《人に対する影響》
パツリンは消化管の充血や出血、潰瘍を起こすことが知られています。特に、子供は成人に比べて体重に対するりんごジュースの摂取量が多いので、子供の健康保護の観点から重要視されているカビ毒です。
《パツリン検査について》
食環境衛生研究所ではLC/MS/MSを用いたパツリン検査を行っております。パツリンを含めたカビ毒は目には見えない汚染物質であり、カビを取り除いたとしても残留する可能性があり、調理・加工による分解も起こりづらい特徴があります。
生産管理や適切な貯蔵が非常に重要となりますが、ジュース等の加工した段階では異常について把握する事が難しいため品質管理の一環として測定を行う事が望ましいです。
参考文献
1.かびとかび毒についての基礎的な情報:農林水産省
2.いろいろなかび毒:農林水産省
3.「カビとカビ毒」:食品安全委員会
弊社ではカビ毒検査を実施しております。
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