≪異臭検査≫食品における腐敗・変敗について~生物的要因である乳酸菌・酵母による劣化について~
はじめに
食品の腐敗・変敗は、生物学的要因、化学的要因あるいは物理的要因により発生します。一般的な食品は、タンパク質、炭水化物及び脂質などで構成されており、狭義的には微生物の酵素作用によってタンパク質が分解され、食品としての可食性を失った状態を腐敗(putrefaction)と言います。一方、タンパク質以外の食品成分が変質することを変敗(deterioration)と言います。さらに脂質や脂肪が光、金属、酸素等により変質し遊離脂肪酸が産生する状態を酸敗(rancidity)と言います。これらの言葉は同義語として使用されることもありますが、本コラムでは区別して述べたいと思います。
腐敗・変敗の要因と防御対策
食品の腐敗は主として生物学的要因、言い換えると微生物により品質劣化が起こることを言います。一方、食品の変敗は、生物的・化学的・物理的要因のいずれか、もしくは複合により品質劣化が起こることを言います。
生物的腐敗・変敗では、細菌や真菌の増殖により食品の外観、におい、味や風味を劣化させます。これを防ぐためには、衛生的な製造環境、酸素が透過しにくい包材の使用、加熱殺菌、低温流通、日持ち向上剤の使用などが考えられます。
化学的変敗では、光や熱の刺激、金属、酸素等により脂質や色素などが酸化され、退色・変色、褐変、酸敗臭が発生するなどの食品を劣化させる現象が起こります。これを防ぐためには、酸素や光を遮断する包材の使用、真空包装、ガス置換、金属系はステンレスを使用するなどで対策を講じます。
物理的変敗では、振動や落下等による形状破壊、粉末や乾物食品の吸湿が挙げられます。物理的変敗は、のちに生物的・化学的変敗も誘導される可能性が考えられます。これを防ぐためには、緩衝能のある包材や容器の使用、ガス充填、バリア性の高い包材を使用するなどの対策があります。
乳酸菌による変敗
食品の変敗に関与する代表的な乳酸菌について紹介します。
乳酸桿菌のLactobacillus 属は、清酒醸造の腐造菌、生麺やでんぷん性加工食品及び漬物などで検出されており、容器膨張やエタノール臭を引き起こす原因として単離されています。
腸球菌のEnterococcus 属はヒト腸内菌であり、ヒトの手指から汚染される可能性があり、食品の変敗原因として工場汚染にも影響する乳酸菌です。この菌は、生クリームや餡など糖度の高い食品や海産物からも検出例があります。
Lactococcus 属は乳酸球菌で、芽胞を形成せず、運動性がありません。ヨーグルトやチーズ等の乳酸発酵食品に多く含まれ、酸敗を引き起こします。
Leuconostoc 属は、食肉及びその加工製品を変敗させる乳酸菌として知られています。具体例としては、ハムの黄色斑点や豆腐の液化もこの菌によって変敗したことが報告されています。
Pediococcus 属は乳酸球菌で、和洋菓子、調味液、醤油、味噌、ワインの変敗(酸敗や粘質化)を起こす菌として知られています。
酵母による変敗
酵母による食品の変敗は乳酸菌についで多く、決定的な制御方法が少ないため防止が困難と言われています。具体的には、微生物制御のため食品のpHを酸性に保持すために使用している有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸など)を酵母は栄養源にしてしまい、その結果pHが上昇してしまうことで微生物の増殖が促進されるケースがあります。また、Rhodotorula 属の特定種、Saccharomyces rosei 及びBrettanomyces intermedius は、保存料に対しても抵抗性があり、容易に増殖することが知られています。
動物、植物、土壌、水(海水・淡水)など、自然界には多くの酵母が生存しており、これらが食品の変敗に関与します。酵母による食品の変敗原因の殆どは、食品素材からの一次汚染並びに製造工程による二次汚染と言われています。酵母による食品の変敗現象としては、エタノール臭、酢酸エチル臭、石油臭、容器膨張、変色、着色、異臭、酸敗、粘質化、斑点生成などが挙げられます。
Pichia anomala 及びCandida cacaoi は、エタノールを資化し酢酸エチルを生成する代表的な酵母です。菓子類や農産物加工品を製造する際には、食品添加物としてエタノール製剤、殺菌剤としてエタノールの使用に注意が必要です。
Saccharomyces cerevisia、Pichia carsonii、Candida famata 及びDebaryomyces hansenii 等の酵母は、ケイ皮酸を脱炭酸させてスチレンを生成し、石油臭を感じさせるケースがあります。ケイ皮酸を多く含むシナモンやシナモン抽出物を用いた食品での事例が報告されており、使用には注意が必要な素材です。
おわりに
食品の製造技術や衛生管理は発展したものの微生物は耐性や抵抗力を獲得しており、撲滅するのは困難であると思われます。弊社では、異臭クレームで発生した臭気成分を同定し、その原因について考察を含めた結果をご報告いたします。異臭原因に微生物が疑われるようでしたら、微生物種同定も実施します。さらに異臭クレーム対策の相談や賞味期限設定もしくは設定期間の見直し検査も実施できます。このようなかたちでお申し出やクレームが少しでも減るようご協力させていただきます。お困りの際はお気軽にご相談いただければ幸いです。
参考文献
1)金井 美恵子、会田 久仁子:調理と衛生 (4)腐敗・発酵と微生物 日本調理科学会誌 39(1), 76-82 (2006)
2)内藤 茂三:乳酸菌と酵母による食品工場汚染と食品の異臭変敗 におい・かおり環境学会誌 41(4), 226-239 (2010)
3)久田 孝:包装食品の腐敗・変敗 日本食品微生物学会誌 32(1), 29-33 (2015)
リンク
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