細菌感染症への最大の武器“抗菌薬”を効果的に選択するために・・・

抗菌薬とは細菌を壊したり、増えるのを抑えたりする薬のことを指します。
微生物の代謝又は増殖機構の一部に選択的に作用し、微生物の発育・増殖を阻止する(静菌作用)か、あるいは微生物を殺滅(殺菌作用)します。選択毒性が高く生体細胞にはあまり毒性を示さないものが、抗菌性物質として使用されている。
今回は細菌に対する薬剤として“抗菌薬”にフォーカスして話を進めさせてもらいます。
1928年にフレミングがアオカビの一種Penicillium notatum の周囲に細菌が生えないという現象から、抗菌活性のあるペニシリンを発見しました。これが“元祖抗菌薬”です!
ちなみにフレミングは、物を片付けるのが苦手らしく、細菌の培養をしていたシャーレを実験台にだしっぱなしにしていたらたまたまカビが生えてきて、その周りでは細菌が生えていないという現象からペニシリンを発見したそうです。
 
それから今までに様々な種類の抗菌薬が開発されてきていますが、細菌も耐性機構を獲得し、いたちごっこになっているという現状があります。抗菌薬は、医療現場だけではなく、畜産分野や食品、愛玩動物等幅広く使用されており、各分野で出現した耐性菌やその遺伝子は、食品や環境等を通じて拡散していきます。そのため、獣医領域・医学領域だけではなくさらに広い分野で足並みをそろえて対策を講じる必要があります。
実際に、このまま薬剤耐性菌への対策を行わない場合は、2050年には世界中でがんによる死亡者(年間約800万人)より多い1000万人が薬剤耐性菌に関連して死亡するとの推定もあります。
そのため、医療分野に限らず地球規模での抗菌薬を適正に使おうとWHOが警鐘を鳴らしており、各国の協力が求められている現状があります。
我が国ではWHOからの要請を受け、2016年から抗菌薬の適正使用に対して薬剤耐性菌出現を抑えていこうというプラン(AMRアクションプラン)が策定されており、薬剤の適正利用に向けた行動が求められています。
 
さて、抗菌薬の適正利用に対して我々は、種類の多い抗菌薬のそれぞれの特徴を理解して使っていく必要があります。
例えば、脂に溶けやすい抗菌薬を脂溶性抗菌薬、水に溶けやすい抗菌薬を水溶性抗菌薬といいますが、溶解性の違いは組織移行性の違いにつながります。具体的には水溶性の薬は、尿中に排泄されるため、膀胱炎等に使われたりします。一方で、脂溶性が非常に高い抗菌薬であるリファンピシンは速やかに脳に入ることができるため、髄膜炎の処置等に使われます。そのため、作用させたい部位、組織等との相性を考えることも重要になってきます。
作用させたい部位が決まらないまま闇雲に抗菌薬を使用することで、耐性菌が出現していってしまいます。さらに、溶解性の違いはターゲットとする細菌の種類にも違いが出てきます。というのもグラム陽性菌と陰性菌は細胞膜の構造が異なっていて、薬剤の浸透具合も異なるからです。脂溶性の抗菌薬はグラム陽性菌、陰性菌いずれの細菌でも細菌内に侵入できます。一方で、水様性の抗菌薬はグラム陽性菌には吸収されますが、グラム陰性菌では外膜という構造によって抗菌薬の侵入は阻まれてしまいます。ただし、グラム陰性の外膜を通過できないポーリンと呼ばれる小孔を通る物質に関しては抗菌活性を示すことができます。
このように、どこ(場所)の何(ターゲットの細菌)に対して抗菌薬を使うかをしっかりと意識して適正な抗菌薬を使っていければ治療の効率も上がり、さらには耐性菌も出現しにくくなるという「いいスパイラル」につながっていくはずです。
次回の抗菌薬のコラムではもう少し深堀した内容についてお話いたします。
 
食環境衛生研究所ではそんな抗菌薬を選択する際のお手伝いを行っております。具体的には、細菌感染が疑われる検体から細菌を分離・同定し、まずはターゲットを特定します。同じ菌でも、取れる地域や使われている抗菌薬によって抗菌薬に耐性のものも出てきますので、実際に分離された細菌に対して薬剤感受性試験を行います。薬剤感受性試験では、ターゲットの細菌にどの抗菌薬が効いているかを培地上で確認する試験で、多種類の抗菌薬を試すことができます。抗菌薬選択でお悩みの際はぜひご検討ください!
 

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