脂質・脂肪酸の適切な摂取量は? ~不飽和脂肪酸編~
まえがき
脂質は重要なエネルギー供給源であり、細胞膜や生理活性物質の構成成分でもあります。脂肪酸はその脂質の一部を構成しており、体内で合成することが出来ず、食事からの摂取が必要なものも存在します。これらの脂肪酸を必須脂肪酸と呼びます。
不飽和脂肪酸には、炭素間の二重結合が1個存在する一価不飽和脂肪酸、2個以上存在する多価不飽和脂肪酸があります。さらに、多価不飽和脂肪酸はその二重結合の位置によって、n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸に区別され、それらはオメガ3脂肪酸・オメガ6脂肪酸として知られています。
■ 参考コラム
脂肪酸についてはこちら →『脂肪酸とは? (良い脂質、悪い脂質について)』
脂質と脂肪酸の違いについてはこちら →『脂質と脂肪酸について』
脂質・飽和脂肪酸の摂取についてはこちら
→ 『脂質・脂肪酸の適切な摂取量は?~脂質・飽和脂肪酸編~』
日本人の食事摂取基準
一価不飽和脂肪酸について
動物性脂肪やオリーブオイルなどの植物油に多く含まれており、オレイン酸がその大部分を占めています。一価不飽和脂肪酸は食事から摂取する以外に、体内でも飽和脂肪酸から合成できるため必須脂肪酸ではなく、食事摂取基準では目標量や目安量が設定されていません。
n-3系脂肪酸 (オメガ3脂肪酸) について
末端の炭素から数えて3個目と4個目の間に最初の二重結合を持つものをn-3系脂肪酸といい、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸 (EPA)、ドコサヘキサエン酸 (DHA) などが該当します。これらは体内で合成することが出来ないため、食事から摂取する必要がある必須脂肪酸であり、日本人の摂取量の中央値をもとに目安量が設定されています (表1)。
表1 n-3系脂肪酸の摂取量 (中央値:g/日) 及び摂取目安量 (g/日)(日本人の食事摂取基準 (2020年版) から抜粋)
性別 | 男性 | 女性 | ||
---|---|---|---|---|
年齢 | 摂取量 | 目安量 | 摂取量 | 目安量 |
18-29 | 1.92 | 2.0 | 1.62 | 1.6 |
30-49 | 2.03 | 2.0 | 1.59 | 1.6 |
50-64 | 2.16 | 2.2 | 1.85 | 1.9 |
65-74 | 2.23 | 2.2 | 1.83 | 2.0 |
75以上 | 2.09 | 2.1 | 1.83 | 1.8 |
妊婦 | ー | ー | 1.48 | 1.6 |
授乳婦 | ー | ー | 1.81 | 1.8 |
n-6系脂肪酸 (オメガ6脂肪酸) について
末端の炭素から数えて6個目と7個目の間に最初の二重結合を持つものをn-6系脂肪酸といい、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸などが該当します。これらもn-3系脂肪酸と同様に食事から摂取する必要がある必須脂肪酸であり、日本人の摂取量の中央値をもとに目安量が設定されています (表2)。
表2 n-6系脂肪酸の摂取量 (中央値:g/日) 及び摂取目安量 (g/日)(日本人の食事摂取基準 (2020年版) から抜粋)
性別 | 男性 | 女性 | ||
---|---|---|---|---|
年齢 | 摂取量 | 目安量 | 摂取量 | 目安量 |
18-29 | 10.67 | 11 | 8.43 | 8 |
30-49 | 10.44 | 10 | 8.57 | 8 |
50-64 | 10.53 | 10 | 8.64 | 8 |
65-74 | 9.46 | 9 | 8.21 | 8 |
75以上 | 8.25 | 8 | 7.23 | 7 |
妊婦 | ー | ー | 9.13 | 9 |
授乳婦 | ー | ー | 10.17 | 10 |
不飽和脂肪酸の含有量
一価不飽和脂肪酸について
代表的な一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸の含有量を、食肉を例に表3に示します。オレイン酸含有量は、脂身のあるリブロースやバラ肉などに多い一方で、鶏ささみや鶏むね肉など一般的にヘルシーと言われている食肉には少ないことがわかります。
表3 主な肉類 (焼き) における可食部100 gあたりのオレイン酸含有量 (mg)
(日本食品標準成分表2020年版 (八訂) 脂肪酸成分表編から抜粋)
食品名 | mg/100g |
---|---|
和牛リブロース 脂身つき | 26000 |
牛ばら肉 脂身つき | 20000 |
豚ばら肉 脂身つき | 16000 |
牛タン | 16000 |
和牛もも肉 皮下脂肪なし | 9500 |
牛ヒレ肉 | 5800 |
鶏むね肉 皮つき | 3400 |
鶏ささみ | 2400 |
豚ヒレ肉 | 1800 |
鶏むね肉 皮なし | 1000 |
多価不飽和脂肪酸について
■リノレン酸 (n-3系)・リノール酸 (n-6系)
必須脂肪酸である多価不飽和脂肪酸の中でも、ナッツ類に多いといわれるリノレン酸、リノール酸の含有量を表4に示します。ナッツ類においては、くるみが最もα-リノレン酸及びリノール酸の含有量が多いことがわかります (表4)。
表4 主なナッツ類における可食部100 gあたりのα-リノレン酸及びリノール酸含有量 (mg)
(日本食品標準成分表2020年版 (八訂) 脂肪酸成分表編から抜粋)
食品 | 18:3 n-3 α-リノレン酸 | 18:2 n-6 α-リノール酸 |
---|---|---|
くるみ いり | 9000 | 41000 |
ピスタチオ いり 味付け | 200 | 16000 |
らっかせい 大粒種 いり | 99 | 15000 |
アーモンド フライ 味付け | 26 | 12000 |
カシューナッツ フライ 味付け | 76 | 8000 |
ヘーゼルナッツ フライ 味付け | 68 | 5200 |
マカダミアナッツ いり 味付け | 85 | 1500 |
■エイコサペンタエン酸・ドコサヘキサエン酸
健康に良い脂肪酸として知られるエイコサペンタエン酸 (EPA)、ドコサヘキサエン酸 (DHA) において、さんまが一番多く含有していることがわかります (表5)。
さんま1尾あたり約150 gですので、1尾食べることで表1に示した摂取目安量の約2 g (2000 mg) 以上のn-3系脂肪酸を摂取することが出来ます。食事のみではこれらの必須脂肪酸の摂取目安量を取ることが難しい場合、サプリメントなどの機能性表示食品を取り入れてみるのも1つの手ではないでしょうか。
表5 主な魚類 (生) における可食部100 gあたりのEPA及びDHA含有量 (mg)
(日本食品標準成分表2020年版 (八訂) 脂肪酸成分表編から抜粋)
食品 | 20:5 n-3 EPA | 22:6 n-3 DHA |
---|---|---|
さんま 皮つき | 1500 | 2200 |
ぶり | 940 | 1700 |
まさば | 690 | 970 |
まいわし | 780 | 870 |
まあじ 皮付き | 300 | 570 |
べにざけ | 270 | 480 |
ぎんだら | 480 | 290 |
あとがき
不飽和脂肪酸を含む食品を多く摂取すれば健康になれる!というわけでもなく、何事もバランスが大事です。本コラムで紹介した摂取目安量を参考にしつつ、日々の食生活の見直し・改善等にお役立てください。
また、弊社では脂質や脂肪酸、その他の栄養表示成分検査も行っております。相談等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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参考文献
>>1. 日本人の食事摂取基準 (2020年版):厚生労働省はこちら
>>2. 脂質による健康影響:農林水産省はこちら
>>3. 日本食品標準成分表 2020年版 (八訂):文部科学省はこちら