家畜の腸管出血性大腸菌O157ベロ毒素

大腸菌は家畜やヒトの腸内に存在しており、ほとんどのものは無害ですが、いくつかは下痢等の消化器症状や合併症を引き起こすことがあり「病原大腸菌」とよばれています。大腸菌は病気の起こし方によって分類され、「腸管病原性大腸菌」「腸管組織侵入性大腸菌」「腸管毒素病原性大腸菌」「腸管出血性大腸菌」「腸管凝集性大腸菌」の5つが挙げられます。
そのうち「腸管出血性大腸菌」は、ベロ毒素を産生し、激しい腹痛や水様性の下痢、出血を伴う腸炎や血便を引き起こします。また、毒素受容体が内皮系の細胞に多く存在することから、内皮系の細胞が多くまた毒素排出に重要である腎臓に作用し、溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こす可能性もあります。腸管出血性大腸菌は菌の表面にある細胞壁由来のO抗原や、べん毛由来のH抗原などの菌の成分により、さらにいくつかに分類されます。
 
細菌の菌体構造
 
「O157」とは、「腸管出血性大腸菌O157:H7」の略称で、ベロ毒素産生型としてしられる血清型です。ベロ毒素は、粘膜細胞および腸壁の血管内皮細胞を直接障害し、吸収されると腎臓など他の血管内皮に対して、毒作用を発揮します。感染経路は、加熱が不十分な肉だけでなく、汚染された食品や水の摂取との経口的な接触によって感染します。O157は病原性が高く、他の病原性大腸菌では菌株が100万cfu以上必要なのに対し、最小発症菌量が小さく10~100cfuの量で感染が成立します。
 
症状について、重度の腸管出血性・非出血性下痢及び腹部疝痛を引き起こします。通常、発熱は軽度もしくは発熱はなく、5~10日で回復するとされており、感染しても無症状の場合もあります。5歳未満の子供や免疫不全および高齢者などの一部の感染者は、溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こす可能性もあります。その結果、赤血球が溶血し溶血性貧血・腎不全に陥り、死亡する可能性もあります。
 
主な宿主はウシで、O157はウシの正常な腸内微生物の一員ですが、病原性は示されません。これは、ウシの消化管には毒素の受容体であるグロボトリアオシルセラミドが欠損しているためであり、牛は無症状キャリアになる可能性があります。
感染源としては、ウシの解体作業などにおいて、牛肉との接触、放牧地の土壌感染から水や野菜、生乳が汚染される場合なども挙げられます。また、ほかの家畜でも検出されており、分離された動物として鹿や羊、馬、やぎ、イヌが挙げられます。
 
ベロ毒素を産生する病原大腸菌感染症の診断については、便培養により起因菌を分離することで検出が可能です。O抗原型の特徴的性状を利用した分離培地が多数あり、O157では代表例として、「ソルビトールマッコンキー寒天培地(SMAC培地)」での培養が挙げられる。「SMAC培地」とは、 腸内細菌を糞便検体から分離するのに使われるマッコンキー寒天培地の乳糖を鑑別糖であるソルビトールに置き換えたもので、O157の検査に用いられます。O157は、ソルビトール非分解・遅分解性のため、SMAC培地では無色透明のコロニーになります。しかし、無色透明なコロニーだからといってO157とは限りません。
 
公定法では、分離培養及び血清型同定を行う前あるいは同時にベロ毒素の遺伝子検出試験も行うことが定められています。この試験では遺伝子に対し、PCR・電気泳動や検出キットなどによる毒素産生に関わる遺伝子の存在を確かめることで、毒素の産生の有無を判別することができます。またベロ毒素の産生については、遺伝子検出法のほかに控訴抗体法などの免疫学的検査なども挙げられています。
 
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