【カカオ豆・カビ】チョコレートから食の安全を考える③
チョコレートはカカオの産地によって香りや風味、酸味が違います。
どれもおいしいですが、好みのチョコレートを探してみるのも楽しみの一つですよね。また、チョコレートは発酵食品だということをご存じですか?カカオ豆は、収穫後、発酵させてからチョコレートやココアなどに加工されます。そして、チョコレートの香りや風味は、この発酵過程で生成する成分に由来します。そのため、その発酵条件(環境)が産地によって異なるので、香りや風味が異なるチョコレートが生まれます。
カカオには主に3つの品種(クリオロ、フォラステロ、トリニタリオ)があり、それぞれに特徴的な味があります。しかし、同じ品種でも発酵条件を変えることで、香りや風味を変化させることができます。発酵日数を長くすると酸味が強くなり、チョコレート感も増します。反対に総ポリフェノール量は低くなり、フローラルな香りや渋みは減少します。チョコレートのおいしさは、カカオの品種による差もありますが、それ以上に、発酵工程がうまくいくかどうかが重要です。そんな発酵に欠かせないものと言えば、酵母や微生物です。カカオ豆の発酵には、酵母と乳酸菌、酢酸菌が関わっています。東京農業大学の大西教授は、カカオ豆の発酵過程や発酵中の酵母や菌の関わりについて図1のように報告しています。1)
発酵初期
酸素の少ない嫌気的な環境で発酵します。酵母や乳酸菌が働き、糖類をエタノールや乳酸に変換します。
発酵中期
酸素を含ませ、好気的な環境での発酵にします。
ここでは酢酸菌が増え、先に生成したエタノールを消費して酢酸を生成します。
発酵後期
発酵初期、中期の酵母や菌は生成した代謝物や発酵熱で死滅し、芽胞菌などの一般細菌が優占となります。
図1. カカオ豆発酵過程の微生物の個体数の動態
発酵食品として有名なヨーグルトやみそ、漬物も発酵に関わる微生物や酵母を変えることで、風味や香りを変え、さらにおいしさを増すことができるかもしれません。最近では、揮発性有機化合物やうま味成分を検査することで、味覚(おいしさ)を予想する分析なども行われています。2)(弊社でも肉のうま味評価など検討中です。)
興味のある方は、弊社での微生物検査や香り(アロマ)検査、うま味(遊離アミノ酸や核酸)検査を実施していますので、いつでもご相談ください。
また、発酵がうまくいかないとおいしさが損なわれるだけでなく、図1の写真にあるようにカビが増殖することがあります。カビが発生すると、そのカビがカビ毒を産生します。カカオ豆に含まれるカビ毒には、アフラトキシンやオクラトキシン3)が知られています。特にアフラトキシンは人体に多大な健康被害をもたらすため、注意が必要です。
現在、日本でのカカオ豆の生産場所は数カ所であり、ほとんどのカカオ豆は輸入されています。『チョコレートから食の安全を考える①_輸入食品』にも記載しましたが、輸入カカオ豆には、アフラトキシンが検出されたため、検査命令が発令されています。そのため、基準値を超えるカカオ豆が国内に入ってくることはほとんどありません。
しかし、カビ毒が含まれていても基準値内である場合、輸入が可能となります。市販のチョコレートにも健康被害はないとされるごく微量のカビ毒は含まれている結果報告があります。4)気になる方は、弊社にてカビ毒の検査も実施しています。お気軽にご相談ください。
>>1) カカオ豆の発酵と微生物について (大西章博)
>>2) Michel S, Baraka LF, Ibañez AJ, Mansurova M. (2021) Mass Spectrometry-Based Flavor Monitoring of Peruvian Chocolate Fabrication Process. Metabolites. 11(2):71. doi: 10.3390/metabo11020071.
>>3) インドネシア産カカオ豆とチョコレートのオクラトキシン
>>4) 高カカオをうたったチョコレート(結果報告)
>>微生物検査はこちら
>>うま味検査はこちら
>>カビ毒検査はこちら