細菌の増殖と環境~水分編~
細菌の増殖には、水分・栄養分・温度の3条件が最適な環境になる必要があります。これらのうち一つでもうまく管理することができれば、例えば食中毒菌の増殖を防ぐことができ、食中毒のリスクを低減することができます。そこで、これら3つの条件のうち、今回は水分に視点を置いて、細菌の増殖とそれに関する知識をまとめていきます。
水分の存在は、微生物の増殖において重要な要素です。水分があることで、生きるために必要な水分を体内に取り入れることができるほか、微生物が環境中で動く際に必要になる等重要な要素となります。乾燥した状態では、微生物は死ぬか、乾燥状態に強い微生物は耐え忍びますが、増殖そのものはできない状態になります。
水分の管理で食中毒を防ぐ、という観点で対策を考えると、食品自体の管理と作業場内の管理の大きくわけて2通りに分けられます。食品自体の管理、ということで分かりやすいのは干物などの完全に乾燥させた食品です。乾燥さえさせてしまえば細菌は増殖できず、乾物が食べられる期間は非常に長くなります。ただし、すべての食品を乾燥させることはできません。そこで、水分を管理する上で知っておくべきものとして水分活性値という指標があります。乾燥させなくても日持ちが長い商品を作るためには、この値をコントロールすることが必須となります。
初めて知る方もいらっしゃると思いますので、水分活性について説明します。食品は、一見濡れているものであっても細菌が利用できる水分、というものは非常に限られています。水分の多くは結合水という形で食品に含まれる栄養素等の成分に固く結びつき、細菌は結合していない自由水と呼ばれる水分のみ利用することができます。そのため、一般的に濃い味(=塩分が多い、糖分が多い等)の食品では、結合水となっている水分が多く、微生物が増殖する危険性はかなり低くなります。例えば、塩漬けや砂糖漬け、ジャム等がこちらに当てはまります。そこで、この数値を具体的に表したのが水分活性値(Aw)という指標です。簡単に説明すると、利用できる自由水が100%の場合を1.00と定めた指標になります(詳しくは、弊社の検査内容水分活性検査をご確認ください)。水分活性の数値として、ほとんどの食中毒菌は0.94以上(データによっては0.93以上)必要で、それ以下になると増殖することができません。ただし、例外として黄色ブドウ球菌は生育できる水分活性値が非常に低く、0.86(データによっては0.83)でも増殖が可能とされており、水分活性が0.94を切るような食品であっても注意が必要です。ちなみに、カビはさらに乾燥状態や水分活性が低い状態に強く、一般的に0.80以上、一部の耐乾性のカビは0.60以上で増殖するので、食材によってはこちらの管理にも注意する必要があります(水分活性の数値については下表及び参考1・2を参照)。
表.食品と水分活性
水分活性(Aw) | 代表的な食品 | 微生物 |
---|---|---|
0.98以上 | 生肉、鮮魚、野菜、果物等(多くの食品) | ほとんどすべての微生物が増殖。 |
0.98~0.93 | パン、ソーセージ等 | サルモネラを含む腸内細菌科の細菌、乳酸菌等が増殖。 |
0.93~0.85 | 乾燥食肉製品、生ハム等 | 黄色ブドウ球菌、酵母、カビなどが増殖。 |
0.85~0.60 | 小麦粉、ナッツ、ジャム等 | 病原細菌は増殖しない。乾燥に耐性をもつ微生物は増殖。 |
0.60以下 | 飴、ヌードル、ビスケット、粉乳、はちみつ等 | 微生物は増殖しない。 |
※参考・引用文献の1の内容を抜粋して引用。ここで載せてある代表的な食品については、飽くまでも一般的な事例であり、商品により水分活性の値は前後する可能性があります。
次に、作業場内の水分の管理、という観点で食中毒対策を考えると、とにかく作業場をぬらさない対策(いわゆるドライ運用)が大事になります。理由としては、床をぬらすことで多くの弊害が出てくるからです。具体的には、まず、濡れた環境があることで微生物が増殖します。続いて、微生物が濡れた場所から拡散されることで汚染が拡大する場合があります。例えば、濡れた場所を従業員が通ったことで、飛び散った水や作業靴の裏側を介して微生物を広がります。それ以外に、濡れた環境になることで空気中の湿度が上昇し、場内全体として菌が増えやすい環境になります(『大量調理施設衛生管理マニュアル』(厚生労働省)では、調理場は湿度80%以下に保つことが望ましいとしています)。このような状態に陥ることを防ぐためにも、水が溜まっているところがあればその原因を探り、原因が機械や器具の配置によるものなのか、人為的なものか等判断し、少しずつ現場を改善していく必要があるでしょう。ちなみに、カビの増殖には湿度70%以上の状態がどれだけ続いたか、ということが関係してきますので、こちらについても場内の管理の指標にしてみてください(カビについては参考3を参照)。
ただし、水分の管理がしっかりできている=食中毒対策が完璧、というわけではありません。せっかく乾燥あるいは水分活性が低い食材でも、最終的に汚染された手指等で食品に触れることで、食中毒が起きる可能性があります。食中毒予防3原則(つけない、増やさない、やっつける)というものがありますが、今回コントロールできるのは増やさない、という項目のみです。つけない、やっつける、という項目とともに対策を打つことで食中毒は限りなくゼロに近づけることはできますので、基本的な手洗いや製造における動き(つけない)が問題ないかといったことや、加熱工程(やっつける)がしっかりと行えているか等、常に衛生対策を見直していきましょう。
参考・引用文献
1. 横関 源延:食品衛生学雑誌, 1975 年, 16 巻 3 号, p.145-152 『水分活性と微生物』
2. 農林水産省:『有害微生物による食中毒を減らすための農林水産省の取組(リスク管理)』
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_microbio.html
3. 柳 宇, 池田 耕一:日本建築学会環境系論文集, 2005年, 第593号, p.49-56 『空調システムにおける微生物汚染の実態と対策に関する研究 第1報 微生物の生育環境と汚染実態』他
『栄養成分検査(水分活性含む)』については、こちらをご確認ください。
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