インフルエンザ変異株「サブクレードK」とは|ワクチン効果や症状は?
今シーズン、インフルエンザの流行開始が例年より早く、異例の速さで拡大していることをご存知でしょうか?
この異例の流行の背後には、インフルエンザA型(H3N2)の新しい変異株、通称『サブクレードK(K亜系統)』の存在があります。
サブクレードKが厄介なのは、私たちの体が過去の感染やワクチンで獲得した抗体がウイルスを敵だと認識しづらく、攻撃をかわすことができるという性質を持っている点です。
世界保健機関(WHO)によるワクチン株決定のタイミングよりも後にこの変異株が主要株として台頭したため、現在接種されているワクチン株と、流行しているこのサブクレードKとの間にズレ(ミスマッチ)が生じている可能性も指摘されています。
本コラムでは、この「免疫をすり抜けやすい」サブクレードKとは何なのか、ワクチンは効果がないのか、そして、この流行期を乗り切るための対策について解説します。
目次
サブクレードKとは?なぜ急速に感染がひろがるのか

サブクレードKとは、季節性インフルエンザの主要な系統であるA型H3N2系統の遺伝子変異によって生じた新たな変異株です。
サブクレードKが急速に流行を広げている原因は、ウイルスの表面にある「ヘマグルチニン(HA)」というトゲ状のタンパク質の変異にあります。
この変異により、ウイルスは自らの表面に「グライカン・シールド(糖鎖の盾)」と呼ばれる新たな糖の鎖を装備します。
この「糖の盾」で変装することで、私たちの体が過去の感染やワクチンで獲得した抗体がウイルスを敵だと認識しづらくなり、攻撃をかわすことができるようになります。
この「抗原ドリフト」と呼ばれる免疫からの逃避能力の獲得が、現在の例年よりも早い流行の主な要因とされています。
例年より早い流行開始により、まだワクチン接種を終えていない人が多かったことや、コロナ禍が明けて社会的な感染対策意識が薄れていたことも、流行拡大のスピードを加速させている要因として考えられます。
ワクチンは効果がない?サブクレードKに対するワクチンの有効性

インフルエンザワクチンは、世界保健機関(WHO)による流行予測をもとにウイルス株が決められ、ワクチンが製造されます。
今年使用されているワクチンは、サブクレードKが主要株として出現する前の古いタイプのウイルス株を基に製造されました。
そのため、ワクチンの製造に使用されたウイルス株と、流行しているウイルス株との間にズレ(ミスマッチ)が生じている可能性が指摘されています。
実際、世界保健機関(WHO)の報告やイギリスで行われた実験室での研究では、現在のワクチンが新しい「サブクレードK」ウイルスに対して効きにくい可能性が示唆されています。
しかし、このようなミスマッチが生じた場合でも、ワクチンは重症化予防には依然として高い効果を発揮します。
また、イギリスで発表された最新の研究(2025年11月発表)によると、ワクチンの有効率(VE:発熱などで病院を受診・入院することを防ぐ効果)は、2~17歳の子供では約72~75%、18~64歳(大人)では、約30~40%となっています。
この結果から、ワクチンはたとえ感染そのものを防げなくても、肺炎や入院、死亡といった重篤な状態への進行を防ぐ効果が期待でき、特に子供に対しての効果が高いことがわかります。
したがって、サブクレードKが流行するなかでもワクチン接種は、特に子供や重症化リスクの高い方は積極的におこなうことが推奨されます。
サブクレードKの症状と特に注意すべきハイリスク層は?

現時点では、サブクレードKが他のインフルエンザ株と臨床的に明らかに異なる特有の症状を示すという報告はありません。
一般的なインフルエンザと同様に、突然の38℃以上の高熱、悪寒、頭痛、関節痛、筋肉痛といった全身症状、そして咳や喉の痛みなどが中心です。
特に注意が必要なハイリスク層
以下の人々は重症化のリスクが特に高いため、予防と早期治療を徹底する必要があります。
・高齢者
・基礎疾患のある方(糖尿病、心疾患、呼吸器疾患など)
・乳幼児や小さい子供
・妊婦
サブクレードKの予防と備え

サブクレードKによる異例の早期流行を乗り切るためには、過度な不安に駆られることなく、基本的な感染対策を強化し、もしもの場合に備えて準備を整えることが、最も重要かつ効果的です。
基本的な感染対策
【徹底的な手洗い・うがい】
帰宅時だけでなく、調理前や食事の前、咳やくしゃみを手で押さえた後など、接触機会が多いあらゆる場面で、石鹸による手洗いを徹底してください。
正しい手洗い方法については、以下の動画も合わせてご覧ください!
【こまめな換気】
室内の空気を新鮮に保つことは、ウイルス濃度を下げるために極めて有効です。寒さを理由に換気を怠らず、1時間に数分間、窓を全開にするなど、空気の入れ替えを意識的に行いましょう。
【マスク着用】
混雑した公共交通機関を利用する際、あるいは人混みや病院など感染リスクが高く、また重症化リスクが高い方が多く集まる場所を訪問する際には、予防や感染を広げないためにマスクを着用するようにしましょう。
正しいマスクの着用について、以下の検証動画を公開しています。
合わせてご覧ください!
「もしも」の備えと行動計画
感染が疑われた際に慌てて外出しないよう、あらかじめ解熱鎮痛剤や経口補水液、数日分の食料品などを備蓄し、すぐに自宅療養に入れる準備をしておきましょう。
会社や学校、保育施設など、ご自身の所属している場所のインフルエンザにおける療養・出席停止期間の基準を事前に確認し、感染が判明した場合の具体的な行動計画(誰が子どもの世話をするか、仕事はどうするかなど)を家族や職場で共有しておきましょう。
サブクレードKは、免疫をすり抜ける性質を持っていますが、これは過度に怖がるべきウイルスではありません。大切なのは、例年よりも早い流行となっていることを認識し、対策を「例年より早く、より深く」強化することです。感染対策を徹底し、この冬を健康に乗り切りましょう。
サブクレードKに関するまとめ
今シーズンのインフルエンザ流行は、「サブクレードK(K亜系統)」という免疫をすり抜けやすい変異株と、例年より早い流行開始という二つの要因によって、異例の広がりを見せています。しかし、過度に恐れる必要はありません。
大切なのは、この「流行が早い」ことを認識し、対策を例年よりも早く強化することです。ワクチンは感染そのものを防ぐ効果は限定的になる可能性がありますが、重症化を防ぐ高い効果(特に子供やハイリスク層)は依然として期待できます。
基本的な感染対策と、もしもの備えと行動計画を再確認し、この流行期を乗り切りましょう。
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