食中毒の原因ランキング
日本では、毎年さまざまな原因による食中毒が発生しています。ここからは、厚生労働省が公表している直近10年間の食中毒統計をもとに、食中毒の原因物質を「事件数」「患者数」の2つに分けてランキング形式で紹介します。
POINT:食中毒ランキングの「事件数」と「患者数」は何が違う?
食中毒の「事件数」は、食中毒になった人数ではなく、同じ原因食品や施設などから発生した一連の事例を1事件として数えたものです。たとえば、アニサキス食中毒で患者が1人だけでも1事件となる一方、学校給食を原因に100人が発症しても、同じ原因による集団食中毒であれば1事件として扱われます。
事件数が多い食中毒原因ランキング
厚生労働省が公表している2016年から2025年までの「病因物質別発生状況」を合算すると、事件数が多い食中毒原因の上位5つは次のとおりです。
順位 | 原因物質 | 10年間の事件数 | 主な原因食品・発生場面 |
|---|---|---|---|
1位 | アニサキス | 3,488件 | サバ・アジ・イワシ・カツオ・イカなどの生鮮魚介類 |
2位 | カンピロバクター | 2,424件 | 生または加熱不十分な鶏肉、調理器具からの二次汚染 |
3位 | ノロウイルス | 2,171件 | 調理者の手指などから汚染された食品、加熱不十分な二枚貝 |
4位 | 植物性自然毒 | 430件 | 毒キノコや有毒植物の誤食 |
5位 | ウエルシュ菌 | 291件 | カレー、シチュー、煮物などの大量調理品 |
2016年〜2025年の統計をもとにすると、事件数が最も多かった食中毒原因はアニサキスで、10年間に3,488件発生しています。2位のカンピロバクターは2,424件、3位のノロウイルスは2,171件となっており、上位3つは4位以下と比べて事件数が大幅に多い結果です。
患者数が多い食中毒原因ランキング
2016年から2025年までの10年間で、患者数が多かった食中毒の原因のランキングは以下のとおりです。
順位 | 原因物質 | 10年間の患者数 | 主な原因食品・発生場面 |
|---|---|---|---|
1位 | ノロウイルス | 78,550人 | 調理者の手指などから汚染された食品、加熱不十分な二枚貝 |
2位 | カンピロバクター | 16,690人 | 生または加熱不十分な鶏肉 |
3位 | ウエルシュ菌 | 15,033人 | カレー、シチュー、煮物などの大量調理品 |
4位 | その他の病原大腸菌 | 11,645人 | 汚染された水や食品など |
5位 | サルモネラ属菌 | 6,754人 | 卵、食肉、これらを使用した料理など |
2016年〜2025年の統計をもとにすると、患者数が最も多かった原因はノロウイルスで、10年間に78,550人が発症しています。2位のカンピロバクターが16,690人であることから、ノロウイルスの患者数は2位の約4.7倍に上ります。
ランキング上位の主な食中毒原因
ここまで紹介したランキングからわかるように、食中毒は、発生した事件数が多い原因と、患者数が多い原因が必ずしも一致するとは限りません。アニサキスのように各地で繰り返し発生する原因がある一方、ノロウイルスやウエルシュ菌のように、一度の発生で多くの患者を出す原因もあります。
食中毒を防ぐには、各原因がどのような食品や経路から体内に入り、どのような状況で発生しやすいのかを知ることが大切です。
ここからは、2016年〜2025年の事件数または患者数ランキングで上位に入った7つの食中毒原因について、特徴、原因食品、潜伏期間、症状、主な対策を解説していきます。
ノロウイルス|調理者の手指や汚染された食品
ノロウイルスは患者数ランキングで1位、事件数ランキングでも3位に入っており、日本の食中毒のなかでも特に注意が必要な原因です。一度の発生で多くの人を巻き込むことがあり、学校や福祉施設の給食、仕出し弁当、飲食店などで大規模な食中毒につながるケースがあります。
項目 | 内容 |
|---|---|
分類 | ウイルス |
主な原因食品・感染経路 | 感染した調理者が触れた食品、ウイルスに汚染された食品や水、加熱不十分なカキなどの二枚貝 |
潜伏期間の目安 | 24〜48時間 |
主な症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、軽度の発熱 |
主な対策 | 石けんと流水による手洗い、調理者の健康管理、二枚貝の十分な加熱、調理器具の洗浄・消毒 |
ノロウイルスとは、人の腸管内で増殖し、嘔吐や下痢などを引き起こすウイルスです。細菌のように食品中で増殖するわけではなく、ウイルスが付着した食品や手指を介して口から体内に入ることで感染します。
予防するには、調理前やトイレの後に石けんと流水で丁寧に手を洗い、下痢や嘔吐などの症状がある人は食品を直接扱わないことが重要です。加熱調理用の二枚貝は、中心部を85〜90℃で90秒以上加熱します。症状が治まった後も便からウイルスが排出される場合があるため、体調が回復した直後も手洗いを徹底する必要があります。
アニサキス|サバやアジなどの生魚
アニサキスは事件数ランキングで1位となっており、国内で最も繰り返し発生している食中毒原因です。患者が1人だけの事例も多いものの、生鮮魚介類を生で食べる機会が多い日本では、飲食店や家庭などで年間を通して発生しています。
項目 | 内容 |
|---|---|
分類 | 寄生虫 |
主な原因食品 | サバ、アジ、イワシ、サンマ、カツオ、サケ、ヒラメ、マグロ、イカなどの生鮮魚介類 |
潜伏期間 | 急性胃アニサキス症は食後数時間〜十数時間、急性腸アニサキス症は十数時間〜数日 |
主な症状 | 激しいみぞおちの痛み、下腹部痛、吐き気、嘔吐など |
主な対策 | 魚の内臓を早めに取り除く、目視で幼虫を除去する、適切に加熱または冷凍する |
アニサキスとは、魚介類に寄生する白い糸状の寄生虫です。生きた幼虫が付いた魚介類を生または加熱・冷凍が不十分な状態で食べると、幼虫が胃や腸の壁に刺入し、強い腹痛などを引き起こします。
アニサキス幼虫は、魚が生きている間は主に内臓に寄生していますが、魚が死亡して時間が経つと筋肉へ移動することがあります。そのため、一尾丸ごと魚を購入した場合は、できるだけ早く内臓を取り除くことが予防につながります。
なお、アニサキス幼虫は目視による除去に加え、70℃以上での加熱、または60℃で1分間の加熱、マイナス20℃で24時間以上の冷凍が有効です。
魚介類を食べた後に激しい腹痛が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
カンピロバクター|生や加熱不十分な鶏肉
カンピロバクターは事件数・患者数の両ランキングで2位となっており、日本で継続的に多く発生している細菌性食中毒です。生や加熱不十分な鶏肉の提供による事件が繰り返されており、一度に数百人規模の患者が発生することもあります。
項目 | 内容 |
|---|---|
分類 | 細菌 |
主な原因食品・感染経路 | 鶏刺し、鶏肉のたたき、加熱不十分な焼き鳥や鶏レバー、汚染された水、生肉からの二次汚染 |
潜伏期間 | 1〜7日 |
主な症状 | 下痢、腹痛、発熱、吐き気、嘔吐、頭痛、倦怠感など |
主な対策 | 鶏肉を生や半生で食べない、中心部まで加熱する、生肉用と他の食品用で調理器具を分ける |
カンピロバクターとは、鶏や牛をはじめとした多くの動物の腸管内に生息する細菌です。
特に食中毒では、カンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリが多く確認されています。比較的少ない菌量でも発症する可能性がある点が特徴です。
カンピロバクターが鶏肉に付着していても、肉の色や臭いなどから見分けることはできません。また、菌は鶏肉の表面だけでなく、切り分ける過程で内部に付着することもあるため、表面を軽くあぶる程度では十分な対策にならない場合があります。
カンピロバクターによる食中毒の多くは1週間ほどで回復しますが、感染から数週間後に手足の麻痺や呼吸困難などが現れるギラン・バレー症候群を発症する場合もあります。
鶏肉は中心部を75℃で1分間以上加熱し、生肉を扱った包丁やまな板は、サラダなどの加熱しない食品にそのまま使用しないなど、カンピロバクター食中毒の対策が大切です。
ウエルシュ菌|大量調理した煮込み料理
ウエルシュ菌は事件数ランキングでは5位ですが、患者数ランキングでは3位に入っており、発生する事件の数に比べて患者数が多い食中毒原因です。一つの鍋で作った料理を大人数で食べる給食や仕出し弁当などでは、集団食中毒につながりやすいです。
項目 | 内容 |
|---|---|
分類 | 細菌 |
主な原因食品 | カレー、シチュー、スープ、煮物、煮魚、麺類のつけ汁などの大量調理品 |
潜伏期間 | 6〜18時間程度(平均約10時間) |
主な症状 | 腹痛、下痢など |
主な対策 | 調理後は小分けにして速やかに冷却する、室温に放置しない、適切な温度で保存する |
ウエルシュ菌とは、人や動物の腸管、土壌、水など自然界に広く存在する細菌です。酸素の少ない環境を好み、熱に強い「芽胞」を作るため、加熱調理後の食品でも保存方法が適切でなければ増殖することがあります。
大鍋で調理したカレーやスープは、表面が冷えていても中心部には熱が残りやすく、菌が増殖しやすい温度の状態が長く続くことがあります。さらに、鍋の内部は酸素が少ないため、ウエルシュ菌が増えやすい環境になります。
保存する場合は鍋のまま放置せず、浅い容器に小分けして素早く冷却しましょう。厚生労働省は、保存する場合には10℃以下または55℃以上で管理し、再加熱後は早めに食べるよう呼びかけています。
「一晩寝かせたカレー」が必ず危険というわけではありませんが、室温に置いたままにするなどの保存方法は避ける必要があります。
病原大腸菌|汚染された食品や水
患者数ランキングで4位となった「その他の病原大腸菌」は、一度の事件で多数の患者が発生した事例の影響もあり、10年間の患者数が多くなっています。
共通の食品や飲料水が汚染されると、多くの人が同時に摂取する可能性があるため注意が必要です。
項目 | 内容 |
|---|---|
分類 | 細菌 |
主な原因食品・感染経路 | 菌に汚染された食品や飲料水、加熱不十分な食肉、洗浄が不十分な野菜、調理器具からの二次汚染 |
潜伏期間 | 菌の種類によって異なり、数時間〜数日程度 |
主な症状 | 下痢、腹痛、嘔吐、発熱など。種類によっては血便が現れる |
主な対策 | 食品を十分に加熱する、安全な水を使用する、手洗いを徹底する、二次汚染を防ぐ |
病原大腸菌とは、大腸菌のうち、人に下痢や腹痛などを引き起こす性質を持つ菌の総称です。毒素を作るものや腸の粘膜へ付着・侵入するものなど複数の種類があり、菌の種類によって発症する仕組みや症状が異なります。
病原大腸菌は一つの菌を指す名称ではないため、潜伏期間や症状を一律に示すことはできません。毒素によって水様性の下痢を起こす種類もあれば、腸の粘膜へ侵入して血便や発熱を起こす種類もあります。
予防の基本は、食品を中心部まで十分に加熱することと、肉や魚の汁をほかの食品に付けないことです。
生肉を扱った後は手を洗い、包丁やまな板を洗浄・消毒します。また、井戸水や湧水などを食品や飲用に使用する場合は、衛生状態が確認された水を使用する必要があります。
サルモネラ属菌|卵や加熱不十分な食肉
サルモネラ属菌は患者数ランキングで5位となっており、卵や食肉など身近な食品から発生する可能性がある食中毒です。同じ食品を多くの人が食べた場合には集団食中毒になることがあり、乳幼児や高齢者では重症化にも注意が必要です。
項目 | 内容 |
|---|---|
分類 | 細菌 |
主な原因食品・感染経路 | 生卵や加熱不十分な卵料理、鶏肉などの食肉、二次汚染された食品、菌を保有する動物との接触 |
潜伏期間 | 半日〜2日程度 |
主な症状 | 激しい腹痛、下痢、発熱、吐き気、嘔吐など |
主な対策 | 肉や卵を十分に加熱する、生卵は賞味期限内に食べる、低温で保存する、手指・調理器具を清潔にする |
サルモネラ属菌とは、鶏、豚、牛などの動物の腸管や、河川、湖、下水などに広く存在する細菌です。2,000種類を超える血清型があり、そのうちの一部が人に急性胃腸炎を引き起こします。
サルモネラ属菌による食中毒は、卵だけでなく、食肉、うなぎ、すっぽん、乾燥した魚介類など、さまざまな食品で報告されています。また、菌を保有する人の手指や、洗浄が不十分な調理器具から食品へ菌が移ることもあります。
肉や卵料理は中心部を75℃で1分間以上加熱し、生卵を食べる場合は賞味期限内のものを使用します。卵を割った後は長時間放置せず、早めに調理・喫食することも大切です。
植物性自然毒|毒キノコや有毒植物の誤食
植物性自然毒は事件数ランキングで4位となっており、食用植物やキノコとの取り違えによる事件が毎年繰り返されています。
1事件当たりの患者数は多くはありませんが、原因によっては少量でも重症化し、死亡につながる可能性があるため注意が必要です。
項目 | 内容 |
|---|---|
分類 | 自然毒 |
主な原因食品 | 毒キノコ、スイセン、イヌサフラン、バイケイソウ、トリカブト、ジャガイモの芽や緑色になった部分など |
潜伏期間 | 数十分〜数日程度。原因となる毒によって大きく異なる |
主な症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、しびれ、発汗、意識障害、呼吸困難など |
主な対策 | 食用と確実に判断できない植物やキノコは、採らない・食べない・売らない・人にあげない |
植物性自然毒による食中毒とは、植物やキノコがもともと持っている有毒成分を摂取することで起こる食中毒です。細菌やウイルスが食品へ付着する食中毒とは異なり、食べられる種類だと思い込んで有毒な植物やキノコを食べてしまうことが主な原因です。
有毒植物には、食用の野菜や山菜とよく似たものがあります。
たとえば、スイセンはニラ、イヌサフランはギョウジャニンニクやジャガイモ、バイケイソウはオオバギボウシなどと間違えられることがあります。毒キノコについても、ツキヨタケをヒラタケやシイタケと誤認する事例があります。
植物性自然毒は、加熱すれば必ずなくなるものではありません。また、「虫が食べているキノコは安全」「縦に裂けるキノコは食べられる」といった言い伝えも、安全性を判断する根拠にはなりません。
食用と確実に判断できないものは、自分で食べないだけでなく、家族や知人へ譲らないことが最も重要な対策です。
食中毒はどのような食品の扱い方で起こりやすい?
食中毒は、原因となる細菌やウイルス、寄生虫が食品に存在するだけで起こるとは限りません。「生のまま食べる」「加熱後に常温で放置する」「調理器具を使い回す」など、食品の扱い方によって原因物質が体内に入ったり、発症につながる量まで増えたりすることで起こります。
特に注意したいのは、「加熱しない」「温度管理をしない」「食品を汚染させる」「食用か判断できないものを食べる」といった扱い方です。
ここでは、それぞれの扱いによって食中毒が起こる理由と、具体的にどのような原因が該当するのかを解説します。
肉や魚を生または加熱不十分な状態で食べる
肉や魚を生または加熱不十分な状態は、食中毒の原因になる細菌や寄生虫などが付着・寄生しているリスクがあるため、この状態で食べると食中毒のリスクが高まります。
生または加熱不十分な状態で食べた場合に注意したい食品と、主な食中毒原因は次のとおりです。
食品 | 主な食中毒原因 | 食中毒が起こる理由・注意点 |
|---|---|---|
牛肉・豚肉・鶏肉 | カンピロバクター、サルモネラ属菌、病原大腸菌など | 牛、豚、鶏などは腸管内に食中毒菌を保有していることがあり、食肉へ加工する過程で肉に菌が付着する場合があります。 色や臭いに異常がなくても、食中毒菌が存在している可能性があります。 |
ひき肉 | サルモネラ属菌、病原大腸菌など | 加工する際に、肉の表面に付着していた菌が内部まで入り込むことがあります。 ハンバーグやつくねは表面が焼けていても、中心部の加熱が不十分であれば菌が生き残る可能性があります。 |
魚介類 | アニサキス、腸炎ビブリオなど | サバ、アジ、カツオ、イカなどには、アニサキスが寄生していることがあります。 また、生鮮魚介類では腸炎ビブリオなどの細菌にも注意が必要です。生や加熱不十分な状態で食べると、原因物質を生きたまま体内へ取り込む可能性があります。 |
肉に付着する多くの食中毒菌には、中心部を75℃で1分間以上加熱することが基本的な対策になります。アニサキスは、70℃以上または60℃で1分間加熱するか、マイナス20℃で24時間以上冷凍することで死滅します。
調理した食品を常温で長時間放置する
調理した食品を常温で長時間放置すると、加熱後に残った菌や調理後に付着した菌が食品中で増殖しやすくなるため、食中毒のリスクが高まります。特に注意したい食品と、常温放置によって問題になりやすい食中毒原因は次のとおりです。
食品・料理の例 | 主な食中毒原因 | 常温放置によって起こること |
|---|---|---|
おにぎり・弁当・サンドイッチ | 黄色ブドウ球菌など | 調理者の手指などから付着した菌が増殖し、熱に強い毒素を作ることがあります。毒素が作られた後では、食べる前に温め直しても十分な対策になりません。 |
チャーハン・ピラフ・焼きそば・パスタ | セレウス菌など | 加熱後に生き残った菌が、常温保存中に増殖することがあります。米飯や麺類を作り置きした場合に注意が必要です。 |
肉料理・卵料理・総菜 | サルモネラ属菌、病原大腸菌など | 加熱後に手指や器具から菌が付着したり、加熱で生き残った菌が保存中に増殖したりする可能性があります。 |
食中毒菌が増殖していても、食品の色や臭いが変わるとは限りません。そのため、「見た目に問題がない」「食べる前に温め直した」という理由だけで、安全とは判断できません。
調理した食品はできるだけ早く食べ、すぐに食べない場合は、小分けにして速やかに冷蔵します。
黄色ブドウ球菌が作るエンテロトキシンや、セレウス菌が作る一部の毒素は熱に強いため、菌を増やしてから再加熱するのではなく、保存中に菌を増殖させないことが重要です。
大量調理した料理をゆっくり冷ます
大量調理した料理を大鍋や深い容器のままゆっくり冷ますと、中心部が細菌の増殖しやすい温度に長く保たれるため、食中毒のリスクが高まります。大量調理後の冷却に注意が必要な料理と、該当する主な食中毒原因は次のとおりです。
料理の例 | 主な食中毒原因 | 食中毒リスクが高まる理由 |
|---|---|---|
カレー・シチュー・スープ | ウエルシュ菌など | 大鍋の中心部は冷えにくく、酸素も少ない状態になります。熱に強い芽胞として生き残ったウエルシュ菌が、冷却中に増殖する可能性があります。 |
煮物・煮魚・肉の煮込み料理 | ウエルシュ菌など | 食材と煮汁を大量に調理すると、中心部の温度が下がるまで時間がかかります。作り置きして常温でゆっくり冷ました場合に注意が必要です。 |
米飯・麺類 | セレウス菌など | 加熱後に生き残った芽胞が、冷却に時間がかかる間に発芽・増殖する可能性があります。 |
ウエルシュ菌やセレウス菌は、加熱に強い芽胞を作ります。そのため、十分に煮込んだからといって、加熱した時点ですべての菌が死滅しているとは限りません。
加熱後の料理が菌の増殖しやすい温度に下がると、生き残った芽胞が発芽し、菌が増える可能性があります。
対策としては、大鍋のまま放置せず、清潔な浅い容器へ小分けして速やかに冷却します。厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、冷却開始後30分以内に中心温度を20℃付近、または60分以内に10℃付近まで下げるよう示されています。
手指や調理器具から食品が汚染される
汚染された手指や調理器具で食品に触れると、細菌やウイルスが調理済みの食品や生で食べる食品へ移るため、食中毒のリスクが高まります。手指や調理器具を介して起こる主な汚染の経路は次のとおりです。
汚染の経路 | 主な食中毒原因 | 具体的に起こること |
|---|---|---|
生肉を扱った包丁・まな板 | カンピロバクター、サルモネラ属菌、病原大腸菌など | 生肉を切った器具を洗わずにサラダや果物へ使用すると、菌が加熱せずに食べる食品へ移ります。 |
加熱前後で同じトングや箸を使う | カンピロバクター、サルモネラ属菌など | 加熱前の肉に触れた器具で加熱後の肉を取り分けると、十分に加熱した食品が再び汚染される可能性があります。 |
感染した調理者の手指 | ノロウイルスなど | トイレの後などに十分な手洗いをせず、おにぎり、パン、弁当などへ触れると、ウイルスが食品へ付着します。 |
傷や化膿がある手指 | 黄色ブドウ球菌など | 手指の傷口などから菌が食品へ付着し、保存中に増殖して毒素を作ることがあります。 |
対策として、生肉や魚に使う包丁・まな板と、加熱せずに食べる食品に使う器具を分けます。共用する場合は、生で食べる野菜などを先に調理し、生肉や魚を扱った後は器具を十分に洗浄・消毒しましょう。
調理前、トイレの後、生肉や魚を触った後には、石けんと流水で手を洗うことも必要です。見た目には汚れていない手指や器具でも、食中毒菌が付着している可能性があります。
食用と判断できない植物やキノコを食べる
食用かどうかを確実に判断できない植物やキノコを食べると、もともと含まれている有毒成分を摂取するおそれがあるため、食中毒のリスクが高まります。食用の植物やキノコと間違えやすい主な例は次のとおりです。
食用と誤認されやすいもの | 有毒植物・毒キノコ | 主に起こり得る症状 |
|---|---|---|
ニラ | スイセン | 吐き気、嘔吐、下痢、頭痛など |
ギョウジャニンニク | イヌサフラン | 嘔吐、下痢、腹痛、臓器障害など |
ニリンソウ | トリカブト | しびれ、嘔吐、不整脈、呼吸困難など |
ヒラタケ・ムキタケなど | ツキヨタケ | 嘔吐、下痢、腹痛など |
植物性自然毒による食中毒は、細菌が食品中で増殖して起こる食中毒とは仕組みが異なります。
有毒植物や毒キノコには、採取した時点から毒が含まれており、洗浄や冷蔵によってなくなるものではありません。種類によっては、加熱しても毒性が失われない場合があります。
対策としては、食用と確実に判断できない植物やキノコを「採らない・食べない・売らない・人にあげない」ことが挙げられます。家庭菜園でも、観賞用の有毒植物と食用植物を近くで栽培すると、収穫時に取り違える可能性があるため注意しましょう。
食中毒が起こりやすい時期はいつ?
食中毒は一年を通して発生しますが、原因によって特に起こりやすい時期が異なります。一般的には、気温と湿度が高くなる梅雨から夏にかけて細菌性食中毒が増え、冬にはノロウイルスによる食中毒が多くなる傾向があります。
また、春は山菜などと有毒植物の取り違え、秋は食用キノコと毒キノコの取り違えにも注意が必要です。時期ごとに特に注意したい食中毒原因は、次のとおりです。
特に注意が必要な時期 | 主な食中毒原因 | 起こりやすくなる理由 | 注意したい食品・場面 |
|---|---|---|---|
3月〜6月ごろ | 有毒植物による自然毒 | 山菜や野草を採取する機会が増え、食用植物と見た目が似ている有毒植物を取り違えやすくなります。 | スイセンとニラ、イヌサフランとギョウジャニンニク、トリカブトとニリンソウなどの取り違え |
6月〜9月ごろ | カンピロバクター、サルモネラ属菌、病原大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオなどの細菌 | 気温と湿度が高くなり、食品に付着した細菌が増殖しやすくなります。購入後や調理後の食品も温度が上がりやすいため、保存方法に注意が必要です。 | 生や加熱不十分な食肉、生鮮魚介類、弁当や総菜、常温で放置した調理済み食品 |
8月〜11月ごろ | 毒キノコによる自然毒 | 野生のキノコが多く発生し、キノコ狩りなどで食用キノコと毒キノコを取り違える事例が増えます。 | ツキヨタケ、クサウラベニタケ、ニセクロハツなど、食用キノコと見分けにくい毒キノコ |
11月〜3月ごろ | ノロウイルス | ノロウイルスによる感染性胃腸炎が流行し、感染した調理者の手指を介して食品が汚染される機会も増えます。 | 調理者が触れた弁当や給食、加熱不十分なカキなどの二枚貝、汚染された調理器具 |
年間を通して | アニサキス、カンピロバクターなど | 生魚や加熱不十分な鶏肉を食べることによって起こる食中毒は、気温だけで発生が決まるものではありません。 | 刺身や寿司などの生鮮魚介類、鶏刺し、鶏肉のたたき、加熱不十分な焼き鳥など |
夏に増えやすい細菌性食中毒は、食品に付着した菌が高温多湿の環境で増殖することによって起こります。
ただし、カンピロバクターのように、食品中で菌が増殖していなくても、加熱不十分な食品を食べることで発症する原因もあります。そのため、気温が低い季節でも、生や加熱不十分な食肉には注意が必要です。
冬に多いノロウイルスは、細菌とは異なり、食品中で増殖するわけではありません。感染した調理者から食品へウイルスが付着し、その食品を多くの人が食べることで集団食中毒につながることがあります。冬は食品の温度管理だけでなく、調理者の健康管理や手洗いも重要です。
また、アニサキスによる食中毒は季節を問わず発生しています。食中毒対策は、「夏だから注意する」「冬なら食品を常温に置いてもよい」と考えるのではなく、食品の種類と原因物質に応じて一年を通して行う必要があります。
食中毒を防ぐための基本的な対策
食中毒を防ぐには、原因となる細菌を食品に「つけない」、食品中で「増やさない」、加熱によって「やっつける」ことが基本です。
ただし、この3原則は主に細菌性食中毒を防ぐための考え方です。ノロウイルスは食品中で増殖せず、アニサキスや植物性自然毒も細菌とは性質が異なるため、それぞれの原因に応じた対策を行う必要があります。
ここからは、食中毒を防ぐための3原則を踏まえて、ウイルスや細菌ごとに具体的な対策を紹介していきます。
手洗いと調理器具の使い分けで原因物質をつけない
食中毒の原因を食品につけないため、調理前やトイレの後、生肉・生魚・卵を触った後には、石けんと流水で丁寧に手を洗いましょう。
手指には、目に見える汚れがなくても、ノロウイルスや黄色ブドウ球菌などが付着している可能性があります。指先、指の間、親指の周り、手首などは洗い残しやすいため、意識して洗うことが大切です。
また、生肉や生魚を扱った包丁、まな板、ボウル、トングなどには、カンピロバクターやサルモネラ属菌などが付着する可能性があります。生肉・生魚用の器具と、サラダや果物など加熱せずに食べる食品用の器具は、できるだけ分けて使用してください。
器具を共用する場合は、加熱せずに食べる食品を先に調理し、生肉や生魚を扱った後に洗剤で十分に洗浄・消毒します。焼く前の肉に触れた箸やトングで、加熱後の肉を取り分けないことも重要です。
食品を適切な温度で保存して細菌を増やさない
食品に細菌が付着していても、低温で保存し、室温に置く時間を短くすることで、食中毒を起こす量まで増殖するリスクを抑えられます。
肉、魚、卵、総菜などの冷蔵・冷凍が必要な食品は、買い物の最後に購入し、帰宅後は速やかに冷蔵庫や冷凍庫へ入れましょう。家庭で保存する際の目安は、冷蔵庫が10℃以下、冷凍庫がマイナス15℃以下です。
冷蔵庫へ食品を詰め込みすぎると冷気が循環しにくくなるため、庫内に余裕を持たせます。また、冷凍食品を室温に放置して解凍すると、表面で細菌が増殖する可能性があるため、冷蔵庫、電子レンジ、流水などを使って解凍します。
調理した料理も、すぐに食べない場合は室温に放置せず、浅い容器へ小分けして速やかに冷蔵・冷凍します。冷蔵庫に入れても細菌がすべて死滅するわけではないため、保存した料理は早めに食べ切ることが大切です。
食品の中心部まで十分に加熱して原因物質をやっつける
肉や加熱用の食品は、表面だけでなく中心部まで十分に加熱することで、多くの細菌やウイルス、寄生虫による食中毒を予防できます。
肉料理などの一般的な加熱条件は、中心部を75℃で1分間以上が目安です。特に、ハンバーグ、つくね、成型肉などは、肉の内部にも食中毒菌が入り込んでいる可能性があります。表面の焼き色だけで判断せず、最も火が通りにくい中心部を確認してください。
飲食店や食品製造施設などで加熱状態を確実に確認する場合は、中心温度計を使用し、測定した温度と加熱時間を記録します。電子レンジで加熱する場合は、加熱むらが生じないよう途中で食品を混ぜたり、加熱後に一定時間置いたりすることも必要です。
調理器具についても、使用後に洗剤で汚れを十分に落としたうえで、熱湯や用途に適した消毒剤を使用します。汚れが残ったままでは消毒効果が十分に得られない場合があるため、洗浄してから消毒する順序が重要です。
ウイルス・寄生虫・自然毒には原因ごとの対策を行う
ノロウイルス、アニサキス、植物性自然毒などは、細菌性食中毒と同じ対策だけでは十分に防げないため、それぞれの性質に合わせた対応が必要です。
主な原因 | 特に必要な対策 |
|---|---|
ノロウイルス | 調理者の健康管理と手洗いを徹底し、下痢や嘔吐などの症状がある場合は食品を直接扱わない。加熱用の二枚貝は中心部を85〜90℃で90秒以上加熱する。 |
アニサキス | 一尾の魚は速やかに内臓を取り除き、目視で幼虫を除去する。70℃以上または60℃で1分間加熱するか、マイナス20℃で24時間以上冷凍する。 |
植物性自然毒 | 食用と確実に判断できない植物やキノコは、採らない・食べない・売らない・人にあげない。 |
ウイルスは、感染した調理者の手指を介して食品が汚染されることがあります。
消毒用アルコールだけに頼らず、石けんと流水による手洗いを基本とし、体調不良時には調理を避けることが重要です。
- 日本で最も多い食中毒の原因は何ですか?
2016年〜2025年の食中毒統計を合計すると、事件数が最も多い原因はアニサキス、患者数が最も多い原因はノロウイルスです。
アニサキスによる食中毒は、患者が1人の事例でも1事件として数えられることが多いため、事件数が多くなります。一方、ノロウイルスは、給食や仕出し弁当、飲食店などで提供された食品を介して、一度に多くの患者が発生することがあるため、患者数が多くなる傾向があります。
- 近年でとくに多く発生する食中毒は何ですか?
近年、事件数が多い状態が続いているのは、アニサキス、カンピロバクター、ノロウイルスによる食中毒です。
アニサキスは生鮮魚介類、カンピロバクターは生や加熱不十分な鶏肉、ノロウイルスは感染した調理者の手指などを介して汚染された食品が主な原因になります。
まとめ
2016年〜2025年の食中毒統計を合計すると、事件数ではアニサキス、患者数ではノロウイルスが最も多くなっています。また、カンピロバクターやウエルシュ菌、病原大腸菌、サルモネラ属菌なども、事件数または患者数の上位に入っています。
食中毒は、肉や魚を生または加熱不十分な状態で食べる、調理後の食品を常温で放置する、大量調理した料理をゆっくり冷ます、汚染された手指や器具で食品に触れるといった扱いによって起こりやすくなります。
予防するには、手洗いや調理器具の使い分けによって原因物質を食品につけないこと、適切な温度で保存して細菌を増やさないこと、食品の中心部まで十分に加熱することが基本です。
食中毒は季節を問わず発生するため、夏や冬だけではなく、食品の種類や調理・保存方法に応じた衛生管理を一年を通して続けましょう。