血球計算について| ①赤血球編 |畜産動物の血球の変動から、体の異変を知ろう

少し前の記事で、畜産動物の血液検査の簡単な概要について、挙げさせていただきました。今回はその中の血球の検査について、もう少し詳しくふれていこうかと思います。
>>畜産動物の血液検査の簡単な概要についてコラムはこちら
 
血球の検査は一般的には、「全血球計算」または、その略称の血算、さらにはCBC(Complete blood count)などと呼ばれています。血液中の赤血球、白血球および血小板の数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値(血液中に赤血球が占める割合)などの測定を行う検査です。主に貧血、炎症などの診断で使われます。
 
牛や豚などの主な哺乳類は、弊社にあるような自動血球計数装置を使用することで、1検体あたり数分で検査することができます。しかし、ニワトリといった鳥類は血球の大きさ・構造などが大きく異なるため、一般的な自動血球計数装置では測定できません。その場合は、血液を染色して直接顕微鏡で見て、分類・カウントをしております。
 
それぞれの値をより詳しく見ていきましょう。
 

赤血球系

赤血球は血液の主要な構成成分で、肺から取り込んだ酸素を全身の組織に運ぶ役割をもっています。
赤血球の内容の大部分はヘモグロビンというたんぱく質です。ヘモグロビンのなかにあるヘム鉄に酸素が結びつくことによって、赤血球は酸素を運ぶことができます。
 
赤血球数(RBC)…その名の通り、検体血液全体の中の赤血球の数のことです。
ヘマトクリット値(HCT)…血液中を占める赤血球の体積の割合を示す値です。牛の代謝プロファイルテストでも使われております。
ヘモグロビン濃度(HGB)…その名の通り、血液中のヘモグロビンの濃度のことです。体内の鉄が不足すると、ヘモグロビンは合成できなくなってしまいます。
 
これらの値が高値の場合は脱水など、低値の場合は貧血などが疑われます。赤血球数が正常でも、他の値に異常がみられる場合にも貧血症状がみられる場合もあります。
 
 
さらに、次に挙げる値たちは、貧血の原因を推測するのに役立ちます。
平均赤血球容積(MCV)…赤血球1個の平均的な大きさを表します。
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)…赤血球1個に含まれるヘモグロビン量を表します。
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)…赤血球1個に含まれるヘモグロビン濃度を表します。
網状赤血球数(RETIC)…網状赤血球は成熟赤血球になる1段階前の幼若な赤血球のことです。この数値から、新しい赤血球を生産できている「再生性貧血」と、生産できていない「非再生性貧血」が推測されます。
 
これらの値から、下の図のような経緯を経て、貧血の原因を推測することができます。
 
貧血の原因推測
 

ここからは、豆知識…

赤血球の役割に関しては、動物種による違いはほとんどありません。
しかし、構造は哺乳類と、それ以外のほぼ全ての動物とでは大きく異なっています。
哺乳類は無核で丸い形をしているのに対し、鳥類・爬虫類・両生類・魚類は、有核で楕円形、大きさも哺乳類より大きいことが多いです。
 

ちなみに…

哺乳類の赤血球の進化の理由は、「体の隅々まで多くの酸素を運ぶため、大きさを小さくした」、「核を捨てヘモグロビン濃度を上げることができた」、などの理由が考えられています。
さらに、哺乳類の中でも赤血球の大きさは動物ごとに異なっており、山羊や羊は赤血球が小さいです。その理由は、祖先が標高の高い山頂付近に生息していたので、ガス交換能と高めるために、赤血球を小さくし、赤血球数を多くすることにより、表面積を増やしたと考えられています。
 
 
次回は白血球や血小板、血算の検体の採血時の注意点について掘り下げていきたいと思います。
しばし、続きをお待ちください。
 
 

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