油断大敵です。−ヘモフィルス性肺炎対策の再考−

近頃、様々な地域でヘモフィルス性肺炎の発生が増加傾向にあります。サーコウイルスワクチンの成果が出ている農場でもその発生が治まらない所が散見されています。今回もう一度基本に立ち返る意味でも、ヘモフィルス(胸膜性肺炎、App)について再考して行きたいと思います。

何故増加傾向?

この頃急に増加している。いきなりヘモフィルスが増殖し被害が起きた等、様々な意見が飛び交っていますが、本当にそうでしょうか?。私の考えは少し異なっています。
元々ヘモフィルスは日和見感染と言われている位、種豚群、子豚群、肥育群に至る農場全体に感染が成立している疾病です。陰性農場も存在はしていると思いますが、それは発病をしていない状態での陰性であって、感染までもまったくしていない状態ではないと思います。
実際にヘモフィルスが発生している農場を見てみるとある特徴が存在していることが解ります。全ての農場がそれに当てはまるとは限りませんが、注意出来るのであれば今からでもチェックして見て下さい。

特徴とは?

  • (1) 今まで子豚舎の事故率が高かった農場が、急激な事故率の低下が起こっている。
  • (2) 母豚へのワクチン接種回数、注射回数が年々多くなって来ている。(特に分娩前の期間)
  • (3) 更新のバランスが乱れている。(産歴構成バランスの乱れ)
  • (4) 費用面だけの理由での導入豚購入から自家育成へのスイッチが行われている。
  • (5) ヘモフィルスワクチン接種の中止。
  • (6) ヘモフィルスワクチンの自農場にあったメーカーの選択不備。
  • (7) ヘモフィルスワクチンの自農場にあった接種時期の選択不備。
  • (8) 洗浄・消毒面の不備。溜まっているヘモフィルス菌。(種豚舎、育成子豚舎、肥育舎は忘れがちなので注意)

さらに細かな理由

①今までとは豚の在庫頭数が異なり、育成子豚舎や肥育舎での飼養密度が悪化している場合。
特に今年の夏季は異常気象と言えるほどの高温多湿地域があった事もあり、その気候状況で感染量が増加した事も示唆出来ます。
※飼養密度については、『うちでは確かに豚が増えているが、飼養密度は適正で問題はない』との指摘がある場合もありますが、ここで言う飼養密度とは今までのレベルとは異なる空気密度になります。(つまり、ヘモフィルスを考える上での飼養密度は、床の飼養面積だけではなく、空間容量までも入れて考える事が重要になります)

②空調管理(空調機器やカーテンの管理)に対する意識が従来と変わらない場合。豚の状態が良くなる事は今までとは異なる増体重を示す事になります。当然ですが子豚の体重変化が今までとは異なり良くなっているのですから、空調管理の方法もそれに伴って変化(観察眼と技術の向上)させる事が必要になります。
確実に1頭の豚が産生する熱量が向上しているわけですから、その心肺機能の手助けを行うための新鮮な空気の提供が重要になってきます。

③飼料給与プログラム(飼料の切り替え時期)が従来と変わらない場合。豚の状態が良くなる事は今までとは異なる増体重を示す事になり、今回のサーコウイルスワクチンを接種した農場では出荷日齢が確実に短縮している傾向が見られます。当然ですが子豚の体重変化が今までとは異なるのですから、飼料給餌の方法もそれに伴って変化(観察眼と技術の向上)させる事が必要になります。
飼養スペースの関係や飼料ラインが1ラインしかない、給餌箱の能力や飲水設備の能力が、大きく成長し、多くなった子豚には対応が出来ていない等の場合、豚は確実に消化不良と胃腸や心肺機能の異常をきたすので、呼吸器病や消化器病に罹りやすくなります。

④ヘモフィルスが育成子豚舎や肥育舎にて発生する要因は、種豚群のヘモフィルス感染量にも左右されます。
特に分娩前での母豚の保菌量の増加は、哺乳子豚への排菌を促し、水平感染(早発感染)を成立させてしまいます。特に分娩前になりますが、母豚へのワクチン接種回数、注射回数の増加は、母豚のストレスを助長してしまいますので注意が必要です。

⑤種豚舎や育成子豚舎、肥育舎の洗浄や消毒が丁寧に行えていない場合。

ヘモフィルスは細菌の一種で、罹患している豚同士での接触による蔓延がメインですが、実は畜舎に残っている塵埃(残餌や糞)等が媒介することによって感染、発病が起こってしまう事も無視が出来ません。

ヘモフィルスの感染・発病は、一群の豚の飼養頭数×接触回数×空気密度×洗浄・消毒効果で表されると言われていますので、面倒でもこの点の確認は重要な様です。

< 初出:ピッグジャーナル/菊池雄一 >

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