脂質・脂肪酸の適切な摂取量は? ~トランス脂肪酸編~

まえがき

脂質は重要なエネルギー供給源であり、細胞膜や生理活性物質の構成成分でもあります。脂肪酸はその脂質の一部を構成しており、体内で合成することが出来ず、食事からの摂取が必要なものも存在します。これらの脂肪酸を必須脂肪酸と呼びます。
不飽和脂肪酸は、炭素間の二重結合に付する水素原子の位置の違いにより、シス型とトランス型が存在します。トランス脂肪酸はそのうち、トランス型の不飽和脂肪酸を指します (詳しくはこちら)。トランス脂肪酸の摂取量が多い場合、血液中の悪玉コレステロールの増加や善玉コレステロールの減少、さらには冠動脈性心疾患のリスクが高まることが示されています 1)
<参考コラム>
脂肪酸についてはこちら →『脂肪酸とは? (良い脂質、悪い脂質について)
脂質・飽和脂肪酸の摂取についてはこちら
→ 『脂質・脂肪酸の適切な摂取量は?~脂質・飽和脂肪酸編~
脂質・不飽和脂肪酸の摂取についてはこちら
→ 『脂質・脂肪酸の適切な摂取量は?~不飽和脂肪酸編~
 

日本人の食事摂取基準

摂取状況

食品安全委員会による国民健康・栄養調査 (平成15-19年) において、全対象者における平均値・中央値ともに0.3%エネルギーと報告されています 2)

摂取目標量

日本人の食事摂取基準 (2020年版) ではトランス脂肪酸は必須脂肪酸ではないため、必要量は定められていません。また、トランス脂肪酸が冠動脈性疾患のリスクの一つであることは明らかですが、健康への影響が飽和脂肪酸に比べ小さいと考えられており、さらには日本人の摂取量の実態が十分小さいことから目標量の策定もされていません。
一方で、世界保健機関 (WHO) をはじめアメリカなどの諸外国は、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えることを推奨しています3)。日本人の大多数はWHOの目標を下回っており、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられています。しかし、脂質に偏った食事をしている場合はWHOの目標を上回る場合も考えられます。現状のままにとどめておくのではなく、さらに摂取量を少なくし、多量摂取者の割合も少なくするための具体的な対策が望まれます。
 

トランス脂肪酸の含有量

消費者庁の指針

消費者庁では平成23年に「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を公表しており、その指針によると、「0 (ゼロ) gと表示することができるのは、原則として当該食品にトランス脂肪酸が含まれない場合に限られる。しかしながら、分析精度にはばらつきがあることから、食品100 g当たり (清涼飲料水等に当たっては100 ml当たり) のトランス脂肪酸の含有量が0.3 g未満である場合には、0 gと表示しても差し支えない。」とされています 4)

農林水産省の調査結果

農林水産省のHPでは食品中の脂質とトランス脂肪酸濃度の調査結果を公表しています。表1に平成28年度の市販調理冷凍食品中のトランス脂肪酸含有量調査結果の一部を示します 5)。この結果から、測定結果の範囲のばらつきはあるものの、ほとんどの食品で食品100 g当たり0.3 g未満であり、消費者庁の指針において「トランス脂肪酸の含有量を0 gと表示できる」ことがわかります。
 

表1 冷凍食品の可食部100 gあたりのトランス脂肪酸含有量 (g/100g) (中央値)
(平成28年度調査結果 (揚げもの・調理冷凍食品:農林水産省から抜粋)

食品名中央値(範囲)食品名中央値(範囲)
冷凍春巻き0.27 (0.13-0.30)冷凍ぎょうざ0.07 (0.07-0.11)
冷凍水産フライ0.25 (0.16-0.42)冷凍鶏からあげ0.06 (0.05-0.10)
冷凍コロッケ0.23 (0.16-0.42)冷凍お好み焼き0.05 (0.03-0.13)
冷凍ハンバーグ0.19 (0.04-0.43)冷凍米飯類0.04 (0.03-0.06)
冷凍カツ0.16 (0.10-0.26)冷凍パンケーキ
冷凍ホットケーキ
0.04 (0.03-0.10)
冷凍ピザ0.14 (0.07-0.29)冷凍たこ焼き0.04 (0.02-0.06)

中央値:データを大きさ順に並べたときにちょうど中央にある数値
 
また、平成18・19年度及び平成26・27年度に調査された、マーガリン類やそれらを使用した菓子類のトランス脂肪酸含有量調査結果の一部を表2に示します6), 7)。これらの調査結果から、平成18・19年度と比較すると、平成26・27年度の方がトランス脂肪酸含有量が低い傾向にあることが確認できます。
マーガリンやショートニング等を取り扱う食品メーカーでは、HPでトランス脂肪酸に関する情報や低減のための取り組みなどを掲載しているメーカーもあります。ご興味のある方は是非各メーカーのHPをご覧ください。
 

表2 可食部100gあたりのトランス脂肪酸含有量 (g/100 g) (中央値)
(平成18・19年度及び平成26・27年度調査結果 :農林水産省から抜粋)

食品名H18.19年度の調査結果中央値(範囲)H26.27年度の調査結果中央値(範囲)
ショートニング12 (1.2-31)1.0 (0.46-24)
マーガリン8.7 (0.36-13)0.99 (0.44-16)
ファットスプレット6.1 (0.99-10)0.69 (0.32-4.4)
菓子パイ5.9 (0.37-7.3)0.58 (0.15-4.6)
半生ケーキ2.4 (0.17-3.0)0.17 (0.10-1.1)
クッキー1.9 (0.21-2.2)0.19 (0.08-0.67)
スポンジケーキ0.53 (0.39-2.2)0.05 (0.03-0.09)

中央値:データを大きさ順に並べたときにちょうど中央にある数値
 

あとがき

トランス脂肪酸を避ければ健康になれる!というわけでもなく、何事もバランスが大事です。本コラムで紹介した含有量や農林水産省・各食品メーカーのHP、製品の栄養成分表示等を参考にしつつ、日々の食生活の見直し・改善等にお役立てください。
また、弊社では脂質や脂肪酸、その他の栄養表示成分検査も行っております。相談等もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
・脂質、脂肪酸、栄養表示成分検査等はこちら → 『食品表示栄養成分検査
・お問い合わせはこちら →『お問い合わせ
 

参考文献

>>1.トランス脂肪酸の摂取と健康への影響:農林水産省
>>2.日本人の食事摂取基準 (2020年版):厚生労働省
>>3.トランス脂肪酸に関する国際機関の取組:農林水産省
>>4.トランス脂肪酸に関する情報:消費者庁
>>5.平成28年度調査結果 (揚げもの・調理冷凍食品):農林水産省
>>6.平成18年度・19年度調査結果 (穀類加工品、豆類加工品、肉類、乳類、油脂類、菓子類、調味料・香辛料類):農林水産省
>>7.平成26・27年度調査結果 (穀類加工品、乳類、油脂類、菓子類、嗜好飲料類、調味料・香辛料類、調理加工食品):農林水産省

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