サルモネラの血清型と畜産動物におけるサルモネラ症

6月になり、梅雨入りも間近となりました。
梅雨や初夏の季節になると、食中毒のニュースが増えてくると思います。
そんな食中毒といえば、皆様何を思い浮かべますか。
色々あると思いますが、その中でも「サルモネラ」を思い浮かべる方は多いと思います。
 
食中毒菌として有名なサルモネラは、もちろん食環研でも度々記事に挙げさせていただいております。
以下のリンクは今年掲載いたしました、サルモネラに関するコラムです↓
 
>>サルモネラ食中毒|原因と感染経路、予防するには?
>>チフス菌・パラチフスA菌とは?|サルモネラの一種 脅威とは?
 
上記のリンクでは、サルモネラの基本的な特徴やヒトにおける症状がまとまっておりますので、「もっと基礎的なことが知りたい」という方は一度ご覧になることをオススメいたします。
 
 
前置きが長くなってしまいましたが、この記事では、上記のコラムを深堀りする形として、
「血清型を決める抗原とは何?」、「血清型はどのように検査しているの?」、「畜産動物ではどんな血清型が問題となっているの?」について簡単にまとめさせていただきました。
 
 

血清型を決める抗原とは何?

サルモネラは分類学的にはS. enterica とS. bongori の2菌種に分類され、S. enterica はさらに6つの亜種に分類されています。人と動物に病原性を示す菌株のほとんどは、亜種Ⅰ(S. enterica subsp. enterica)に属します。
さらに、サルモネラ属の菌体には、菌体抗原(O抗原)と鞭毛抗原(H抗原)、一部の菌種では莢膜抗原(Vi抗原)と呼ばれるものもあり、その組み合わせによって2,500以上の血清型により細かく分類されます。
亜種Ⅰに属するサルモネラの血清型には固有名もつけられています。
畜産業界の方々が耳にする機会があると思われる、「サルモネラ・エンテリティディス(S. Enteritidis)」や「サルモネラ・ティフィムリウム(S. Typhimurium)」などがその固有名です。
 
 

血清型はどのように検査しているの?

特定のO抗原や、H抗原に反応するように調整された免疫血清というものを検査に使用し、凝集反応という抗原と抗体が結合した塊を目視で確認することで、血清型を決定していきます。
H抗原は1相と2相という遺伝子的に異なった複数の抗原を有す血清型があります。そのような血清型のサルモネラは通常の状態では1相を発現していることが多いそうなのですが、低い頻度で遺伝子のスイッチが切り替わり、2相を発現する菌が現れ、混在するようになります。
基本、培地で増やしただけの菌では、凝集反応は1相にあたる血清のみでみられます。
では、どうやって2相を調べるかというと、
H抗原は鞭毛というオタマジャクシのしっぽのような運動をする部位の抗原なので、1相に対する免疫血清を培地に入れると、1相発現菌の動きを抑制することができます。逆に動きの良い菌を拾うことで、2相発現菌を増やすことができ、2相に対しての検査をおこなうことができます。
一方、元々スイッチできる2相目の抗原を有していない血清型、または欠失してしまったという菌もあり、その場合は1相のみ反応がみられます。
 
 

畜産動物ではどんな血清型が問題となっているの?

家畜伝染病予防法では、S. Dublin、S. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Choleraesuisの4つの血清型のいずれかのサルモネラを原因とした、牛、水牛、鹿、豚、いのしし、鶏、あひる、七面鳥、うずらの疾病を「サルモネラ症」として届出伝染病に指定されております。
さらに、一部の血清型(ひな白痢:S. Pullorum、及び家きんチフス:S. Gallinarum)は家畜伝染病(法定伝染病)における「家禽サルモネラ感染症」にも指定されております。
その他の血清型のサルモネラであっても、臨床症状が見られる場合がございます。
主な症状は急性例では食欲不振、元気消失、下痢症状などが見られ、場合によっては敗血症により死亡してしまいます。慢性例では死亡率は低いですが、腸炎が原因で脱水や発育不良など、妊娠した個体では流早死産などの影響が出ます。
 
それでは、牛・豚・鶏についてそれぞれもう少しだけ詳しく述べていきます。
 
牛のサルモネラ症は主に子牛にみられますが、場合によっては成牛での集団発生も見られるそうです。成牛の感染では一般的な症状に加えて、搾乳牛では乳量減少といった症状も引き起こすこともあります。牛から分離されるサルモネラでは、検出頻度の高いS. Typhimuriumや、牛への感染の特異性が高く、症状も重くなりやすいS. Dublinが特に問題視されています。
 
豚のサルモネラ症は、離乳豚に発病し易く、成豚や哺乳豚の発病は稀で、「感染」=「発症」とならない日和見的な感染も見られます。
豚に特に被害をもたらすサルモネラは、豚への感染の特異性が高く、敗血症の症状が見られることの多いS. Choleraesuisや、検出頻度が高く、腸炎等の症状が見られるS. Typhimuriumなどが挙げられます。
また、豚に対してはさほど問題にはなっていませんが、ヒトでは度々食中毒の原因となるS. infantisといった血清型が健康豚からも分離されることがあるので、注意が必要です。
 
鶏の場合は、牛・豚に比べてサルモネラの保菌率が高く、多くの血清型が分離されていることが知られています。
サルモネラによる鶏の臨床的な症状がよく見られるのは孵化後1ヶ月以内の幼雛期であり、特に孵化後10日以内に発症、死亡する例が多いそうです。成鶏では発症することは稀であり、一見健康な鶏が保菌しており、卵を介して雛に感染してしまうケースが見られます。
鶏のサルモネラの感染経路のひとつである卵を介した感染(介卵感染)には、菌が卵巣から直接卵へ移行する(In egg)場合と腸管内の菌が糞便とともに排泄され、これが産卵中あるいは産卵後に卵殻へ付着し、卵殻を通過して卵内へ移行する(On egg)場合の2経路があります。ほとんどの血清型はOn eggによる感染なのですが、S. Enteritidisの場合、in eggによる感染もあるため、対策の難しさがあります。
 
また、近年ではどの畜種においてもS. Typhimuriumの2相鞭毛抗原が発現しない変異株である血清型(4:i:-)※、または非定型 STと呼ばれるサルモネラの分離頻度が上昇して問題となっています。
※サルモネラの血清型の表記の仕方(O抗原:H1相:H2相)
(4:i:-)の場合は(O抗原の種類が4:H抗原の1相目がi:2相目は発現しなかった)という意味になります。
定型株のS. Typhimuriumと非定型STの病原性に差はないため、注意が必要です。
こちらの非定型STは通常の同定検査の凝集反応では特定ができないため、特定にはPCR+シーケンスによる検査の必要があります。
 
 
今回紹介させていただいた血清型はほんの一部であり、それ以外の血清型であっても畜種によっては病原性がみられるもの、みられないもの、と多種多様です。
この検査に携わるものとして、これからもより多くのサルモネラの血清型とその症例、検出例を調べて、農場での対策にお役立ちできるように精進していきたいと思います。
 

youtube