質量分析法とは?わかりやすく解説④試料の性質とイオン化

試料の性質とイオン化の相性

弊社で定量分析を実施する検体は血漿や組織といった生体試料や、生鮮食品、加工食品など多岐にわたります。
これらの検体には、繊維、組織、肉質、それだけではなく、非常に多くの目に見えない成分も含まれています。マススペクトロメトリーでは、その中から目的の化合物(試料)を測定します。マススペクトロメトリーの主要目的は、試料分子の質量情報を[M+H]+、[M-H]として得ることです。このためには、試料を分解させずに気体状のイオンを生成させる必要があります。試料がどのような物理的・化学的刺激に対して分解するのかを知る必要もあります。装置の小型化と自動化は急速に進歩しましたが、試料の性質とイオン化との相性を見極めるのは、経験と知識に依存しています。イオン化法選択の主なポイントは次の二つです。
 
(1) 試料の安定性(加熱など外的要因に対する安定性、試料自身の化学構造など内的要因による安定性)
加熱により気化する試料にはEI、CIを、加熱により分解する試料にはMALDI、ESIを使います。EI、MALDIのようなエネルギー照射型のイオン化は試料自身を分解させる傾向があります。試料自身が不安定な場合、加熱気化するならばCIを、加熱分解するならばESIを使います。
試料が安定から不安定に向かうにつれてEI→CI→MALDI→ESIの順にイオン化法を選択します。
 
(2) 試料のイオンになりやすさに関する性質(酸性・塩基性、親水性・疎水性、ベンゼン環などのπ電子構造の有無など)

  • 酸性基はプロトンを放出しやすい
  • 塩基性基はプロトンを引きつけやすい
  • 多数の水酸基はNa+等のアルカリ金属イオンと包接体を形成しやすい
  • 疎水性基は表面活性が高く溶液から飛び出しやすい
  • ベンゼン環は電子を放出しやすい
  • ハロゲン・ニトロ基・シアノ基は電子を引きつけやすい
  • 等です。酸性および塩基性官能基を有する化合物にはESIの負イオンおよび正イオン測定が適しています。糖類などの水酸基の多い化合物にはMALDIが適していますが、親水性が高いのでマトリックスから飛び出しにくく感度が低くなる傾向があります。感度向上の対策として、アルカリ金属の添加や疎水性官能基(メチル基やベンジル基のように、水との相互作用が小さい官能基)を用いた誘導体化が行われます。揮発性の縮合多環化合物にはEIが適しますが、電子吸引基を有する場合にはCIの負イオン測定が効果的です。このように化合物の各性質に合わせてイオン化法を選択することが、上手に測定するための秘訣です。
     

    リンク

    >>質量分析法とは?わかりやすく解説①概要はこちら
    >>質量分析法とは?わかりやすく解説②イオン化部はこちら
    >>質量分析法とは?わかりやすく解説③質量分析部はこちら
     
     

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